2010/01/25

さあ、コペンハーゲンってどこの国の都市だっけ?

はてブがたくさんついた記事を読むことはほとんどないんだけど、最近これを偶然読んだ。そしてフーコーを連想したのだけれど、そのあとこの記事の500個以上のブクマを見たら、フーコーに言及してるものがちらほら、中井久夫について語るものまでいて、マーカーのみなさんお前らって何者なの? 研究者とか一流大学の学生とか院生なのかなって思った。だって少なくとも私の教え子たちにフーコーを知っている人がいたとは思えない。フーコーは医学史に関わる著作もあるから、医学生の間で有名であってもよさそうなものだが、私は教員時代に学生とフーコーの話をした記憶は一度も無い。さすがにフランクルだったら有名かもしれない。でもどうかな。それでもローリーは知っているだろうか?

そもそも医学部の学生や研修医は、まあ医者もそうかもしれないし、あるいは私が教えてた大学の連中が特別そうだったのかもしれないが、実際の臨床に役立たない知識だと判断すると、とたんに驚くほど無関心になる。そのことを象徴するような出来事を、たまたまHDを整理していたら出てきたこの写真で思い出した。

ABL

ラジオメーター社の血液ガス分析装置である。同社はこの分野で世界的なシェアを占めている。私はわざわざ「COPENHAGEN」という文字を強調してこの写真を撮った。だってね、みなさん、おかしいと思いませんか? 血液ガスの測定機器に限って、アメリカでもない、ドイツでもない、日本でもない、コペンハーゲンという都市がある小国の会社が大きなシェアを占めているんだよ。

さあ、コペンハーゲンってどこの国の都市だっけ?

そう、デンマークだよね。賢明な読者諸君はすかさず答えたはずだ。そしてもう興味津々になってるよね。ねえ、どうしてアメリカでもなくドイツでもなく日本でもなく、血液ガス分析に限ってデンマークが出てくるの? もうあなたは早く答えを教えろってイライラしているはずだ。

それはどうしてかというとね、デンマークがポール・アストラップ博士という血液ガス分析のパイオニアを生んだ国だからさ。あのね、1950年代の初頭、デンマークではポリオが大流行し、何百人ものこどもたちが呼吸不全で亡くなっていたんだ。そこでアストラップ先生は……。以下はめんどくさいのでコレでも読んでね。

血液ガス分析のことをアストラップって呼ぶ医者もいるよね。それぐらいすごい先生なんだよ。でも私はそんな医者、「メスよ輝け」の当麻先生以外に見たことないぞー。そんなのそうとう古い医者だと思うぞー。

まあそれはおいといて、いかがだろうか。この測定装置の「COPENHAGEN」という文字は、血液ガス分析の話のとっかかりとしてはとても良い素材なんじゃなかろうか。みなさん、引き込まれたでしょ。だから私はそういうふうに話し始めて、それからアストラップ先生がアメリカの学者たちと勇敢に戦った話とか付け加えてやろうと思い、さっそく研修医たちを集めた。私の素晴らしい講義が始まるぞー。私は質問した。

さあ、コペンハーゲンってどこの国の都市だっけ?

「えっと、どこだったかな」
「聞いたことはあるんだけどな」
「ハーゲンっていうぐらいだからドイツなんじゃないですか?」
「あー、東欧の方じゃなかったっけ?」
「オーストリアとかじゃない?」

いかん。私はこの大学の連中をすっかりナメていたようだ。ローリーにいたっては、知らないってこと自体に悦に入り、自慢気な笑顔を浮かべている。

ローリーが研修医に毛のはえた程度だったこの頃、翡翠科医の間ではプレコンディショニングという言葉がちょっとブームだった。プレコンディショニングというのは、心臓が短時間の虚血にさらされると、それで虚血に強くなって心筋梗塞になりにくくなるって現象のことだ。そして、あたかも短時間の虚血にさらされたかのように虚血に強くなることをプレコンディショニング効果と呼ぶ。当時、翡翠薬のいくつかがこのプレコンディショニング効果を持つのではないかといわれており、それで学会や学術雑誌などで話題になってたのだ。もちろん、そんなことはまだ教科書とかには書いてなかった。

ちょうど私がプレコンディショニングについて議論しているところに、研修医に毛のはえた程度のローリーが入ってきた。研修医に毛がはえたぐらいの頃というと、もうそろそろ教科書一辺倒の勉強は卒業して、学術雑誌なんかも読み始め、旬の知識を仕入れたりし始める頃である。私はローリーがそういう一人前への道を歩み始めているのかどうか、ちょっと試してみたくなった。そこで聞いてみたのである。

ローリー、プレコンディショニングって知ってる?

ローリーの答えはこうだった。

ローリー

「それって新しいバンドですか?」

ローリーは満足気な笑顔で答えた。このときのローリーの心の中はおそらくこうだ。俺はスミルノフ先生がロック好きなのを知っている、上司の趣味を知り、上司の気を引く会話がよどみなくできる俺、俺って素晴らしい部下だ。

私はそういうローリーの健気な心境が理解できたので、怒ることはせずに話をそのまま合わせることにした。

「そうそう、今どきちょっとアレかなって思うんだけど、グランジの影響受けちゃっててさ、プレコンディショニングなんていかにもグランジっぽいよね。ボーカルにもディストーションかけちゃってさ、俺の心臓強いぜーっとかって歌うんだよ。そういえば、こないだローカル放送にも出てたぞ。石川テレビをご覧のみなさんコンニチハ!プレコンディショニングです!ってね。」

ローリーは私の妄想癖のスイッチを入れる天才だった。

あれからもう何年も経つ。ひとつ分かったことは、ローリーがいなければブログ記事ひとつ書くのにもたいへんな苦労がいるってことだ。その後ローリーは専門医試験にも合格し、プレコンディショニングの研究に打ち込むほどまでに成長した。だけど、コペンハーゲンがどこの国にあるのかは、結局教えるのを忘れてしまった。COP15も開催されたことだし、さすがにもう分かっているだろうと思いたい。

私はローリーとの再開を楽しみにしている。そして最初の挨拶はこうに決まってる。コペンハーゲンってどこの国の都市だっけ?

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2009/07/07

死☆BOM ローリー

<プロローグ>

みなさんこんにちは。僕です。僕って誰かって? やだなあ、先生ですよ、みんなのよく知っている先生です。

もう遠い昔のことになりますが、先生がまだ翡翠を教えていた頃、ミオちゃんに「先生にお願いがあるんですが…」と意味深な雰囲気で言われました。先生は、続けて愛の告白がなされたらどうしようかと心配したのですが、そのお願いとは「もっとローリーさんネタを増やしてください」というものでした。ちょっとがっかり。

あれから何年経ったかもう覚えていないのですが、先生は他ならぬミオちゃんのお願いはけっして忘れていませんよ。とっておきのローリーネタです。

この物語の元題は、最初は「翡翠バッグの運命」でした。題名を「死☆BOMローリー」に改名した理由は最後に分かります。本当は、先生と、いや、もとい、僕とローリーの悲しい別れの物語です。僕とローリーは、先生と教え子、というよりは、僕と鼠、のような関係だったような気がします。だから今日は、先生、ではなく、僕で語ることにしよう……。

<Ф>

死☆BOM01
それはまだ僕が翡翠科医で、そして人に翡翠を教える仕事もしていた頃の話だ。僕は古典的な緑色のゴムの翡翠バッグが好きだった。
死☆BOM02
近頃の新しい翡翠バッグは、こんなシリコン製みたいな白いのが流行っている。でも僕は自分の手のひらにすっぽりと入って、まるで患者の肺の感覚が直接手のひらに伝わるような古いゴム製が好きだった。
死☆BOM03
あまりよく知られていないことだろうけど、翡翠科医は仕事の前に翡翠機器の始業点検をする。特に翡翠バッグの劣化には敏感だ。おっといけない、このバッグは全然膨らまないじゃないか。
死☆BOM04
なんだ、よくみるとバッグのコックが開いていた。これでは酸素が漏れてしまって膨らむはずがない。
死☆BOM05
開いているコックを……
死☆BOM06
閉める……
死☆BOM07
ほら、しっかりと膨らむようになった。
死☆BOM08
いや、いかん。このバッグには小さな穴が開いていて、そこから酸素が勢いよく噴出してくる。小さな穴といえども、このまま患者に使用するわけにはいかなかった。
死☆BOM09
数少ない愛着のあるゴム製バッグだったが、穴が開いてしまっては使えない。残念だが捨てるしかないのだ。
死☆BOM10
いや、このままゴミ箱に捨てたのでは、誰かが「間違って捨てられている」と勘違いして拾い出す可能性がある。穴の開いたバッグをまた使われたらとても危険だ。念のため、誰が見ても二度と使えないと分かるようにハサミを入れておこう。
死☆BOM10
真っ二つにしてトドメを刺しておきながら未練がましいのだが、やっぱり捨てるのは惜しいような気がしてきた。これはこれで何か別のことに使えないだろうか。そう、たとえば、手術室でかぶる帽子とか……。
死☆BOM11
さっそくローリーに試着してもらった。
死☆BOM12
さすがファッションリーダーのローリーだ。何でも着こなしてしまう。
死☆BOM13
まるで武士を思わせるかっこいい帽子だ。でも、ローリーだからかっこよく見えるんじゃないだろうか。果たして万人がかぶってもかっこいいのだろうか。
死☆BOM14
ところが、僕はこの帽子の欠点を発見してしまった。上から見るとバッグの入り口の穴から頭が丸見えなのだ。これじゃ不潔だと指摘される可能性も否定できない。
死☆BOM15
いや、心配はない。僕の手元には2つに切ったもう一方の切れ端、すなわちバッグの下半分が残っているのだ。こちらはコックを閉めてしまえば完全な閉鎖空間の中に頭をしまいこむことができるのだ。
死☆BOM16
いやー、やっぱり似合うねえ、ローリー、と言いながら僕が彼の頭に手を伸ばすと、不思議なことにローリーはひどくおびえた表情になった。
死☆BOM17
僕はローリーがかぶったバッグについているコックに手をかけた。そのときは、自分でも自分が何をしたいのかよく分からなかった。ただそうしたい気分だった、とでもしか説明のしようがない。よく意味が分からなかったが、ローリーは「それだけはやめてください!」と絶叫した。
死☆BOM18
僕の意志ではなく、別の何か大きな力が僕を動かしているかのようだった。僕はコックに手をかけ……
死☆BOM19
それをひねって大気に開放した。
死☆BOM20
開放されたコックからは、プシューという大きな音とともに大量の気体が噴出した。
死☆BOM21
気体はとどまることなく流出し続けた。ローリーの顔が青ざめていった。
死☆BOM22
いったいこの気体は何なのだろう。ローリーは悲鳴にもならない苦痛に満ちた声を出した。
死☆BOM23
ローリーは、しぼんだ。そしてソファーに倒れこんだ。これがローリーとの最後のお別れになろうとは、僕はそのときは夢にも思わなかった。
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2009/04/12

我が教え子たちよ

先生の教え子たちよ、元気にやっていますか。これは先生の教え子たちにしか分からないエントリーです。部外者の方々には本当に申し訳ありません。

先生はロシア連邦保安庁の追跡を何とか逃れ、君たちと遠く離れた地に潜伏しています。先生はとてもさびしいです。とくに先日、この風景を見たとき、君たちとよく利用したあの礼拝堂を思い出し、思わず目に涙が浮かびました。

ロンシャン

関連ログ:人気メニューの名前は?

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2008/10/14

ローリー衝突

ローリーは皆さんの想像のとおり、とてもチャラチャラした奴です。例えばこんなアイテムを乗り回しています。

ローリーの愛車

先生はとてもけしからんと思います。こんなチャラチャラした車を乗り回していたら、いつか痛い目に遭うのは間違いありません。

と、常日頃思っていたので、次の新聞記事を見て一瞬ドッキリびっくりしました。

ローリー衝突

ローリー、くれぐれも気をつけてください。ついでにユウコも。

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2008/07/17

モリくんの帽子

某病院の研修医モリくんの頭を見て先生は注意しました。

森1

拡大してみましょう。

森2

それはそれとして、先生はモリくんの髪の毛の伸びるスピードが異様に早いので、帽子を突き破って出てきているのではないかと推測しました。

「いや、違います。髪が短いのと、頭を掻くクセがあるんでえ〜」 モリくんは先生の仮説に反論しました。

森3

次の週、さっそくモリくんは帽子の種類を変えたようです。もっと目の細かい、しかも頭全体を覆うタイプに変えて、髪の毛のはみ出し防止に努めています。先生はモリくんにもずいぶん学習能力がついたなあと感心しました。

しかし、先生のチェックは厳しいです。一見これでいいような感じがしますが、拡大してよく観察してみましょう。

森4

それまで何もなかった広大な大地に、木々が生え始めています。先生はやはり、モリくんの髪の毛は数時間で数ミリ伸びる説を唱えたいと思いました。「単に短いだけですってば」とまだ反抗していますけど。

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2008/06/29

ローリーさんおつかれさまです

ローリーさんおつかれさまです

とうとう週刊ブログのようになってしまってます。一筋縄ではいかない大ネタも溜まっているのですが、なかなか着手する気になれません。意外にリクエストの多いのが「もっとローリーさんネタをお願いします」というものです。ローリーが駆け出しの研修生だった頃はやりやすかったのですが、今ではローリーもすっかり指導者の立場ですから、なかなか気軽にはやりにくくなってしまいました。それでもローリーに関するネタは、実はまだすごい傑作が残っていますので気長に待っててください。今日のところはとりあえず、ローリーが職場でも本当に普通にローリーと呼ばれている証拠をあげておいて、お茶を濁します。

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2008/06/15

紙垂(しで)

先生は今日近所を歩いていたのですが、いつもと違う道を通っていたら小さな神社があるのを見つけました。

さて、神社といえば先生はこういう形の紙をすぐに思い浮かべます。

シデ

そこでふと、この紙のことを何というのかなあなんてことが気になりだし、ネットで調べることにしました。その結果、この紙は紙垂(しで)というんだそうです。

■紙垂(しで)の作り方

こんなサイト見ていますと、紙垂を無駄にたくさん作りたい衝動に駆られますよね。しかも作り方には「吉田流」とか「白川流」なんていう流儀があるようですよ。

そういえば先生は以前、手術室で紙垂付きの翡翠器を見たことがあります。

シデシデ

こんなことする人なんか紙垂ばいいのに。

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2008/06/01

大学裏サイト化

「あ、先生、お久しぶりです。」

先生は大学の廊下で久しぶりにYJ君に会った。数年前は先生の元にもやってきたヒヨっ子研修医だったが、今では立派な精神科医である。実は先生は、最近何もやる気が起きなかったり将来を悲観したりするばかりで全く元気がなかったので、これは丁度いいチャンスと思い、いきなりこう言ってみた。

「ああ、最近すごくつらいんです、つらくてつらくてたまらないんです」

ところがYJ君は、また先生がいつものくだらないギャクをやり始めたとでも言わんばかりの、研修医時代にも時折見せていた人をバカにしたような笑いをフッと浮かべるだけで、先生の相談を全く無視しやがった。

そうして次の言葉を残してその場を去っていった。

「先生のホームページ、たまーに見てます」

「たまーに」だと? おい貴様、全然成長してねーな。それで目上の人を喜ばす言葉になってるとでも思ってるのかよ。「たまーに」だと? おいおい、普通だったらここは「毎日」とでも言うべきだろ。いや、「毎日」じゃあまりにもウソっぽくてイヤだっていうんならよ、「いつも見てます」とか「よく見てます」って言えば済むことだろ。

ということで先生は罰としてこいつの研修医時代のみだらな姿をさらします。

yoju1
ソファーに横たわりながら先生の話を聞く研修医。とても世界的な先生の話を聞く態度とは思えません。

yoju2
世界的な先生が話しているというのに、その途中に奇跡的な姿勢で眠りにおちる研修医。先生は催眠光線を放った覚えはありません。

あと、ついでに思い出したんだが、こいつの後輩のShoも精神科に進んだんじゃなかったか?

sho1

そういえばあれからさっぱり先生に挨拶がないぞ。ついでにこいつの研修医時代の汚点もさらしておく。

mini ni tako

仕事中だというのにこいつが書いていたくだらん落書きだ。先生は今まで黙っててやったけど、ついに白日のもとにさらしてやったぞ。

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2007/10/20

病院に提案した

大学や病院からの通達がメールで来るのはいいんだけど、それが必ずワード文書で、メール本文には添付文書参照としか書いていないのに腹が立って、病院長室宛てに以下のメールを出した。

貴部署に関わらず、通達事項がメールで送られてくるのはいいんですが、なぜ本文に書かずにワードなどの添付書類で来るのでしょう。添付文書で送ることには弊害しかありません。

1)メールを開いて添付文書をまた開くというのは二度手間であり、さらに別アプリケーションが起動する時間を考えれば、添付文書をわざわざ開けて見ている人が多いとは思えない。

2)添付文書はマイクロソフト社のワードで作成されたファイルが多いのですが、必ずしもすべての人間がワードを持っているとは限らない。現に私はワードは持っておらず、しばらく添付文書は開けないでいました。しょうがないので、「このためだけに」マイクロソフトオフィスを買いました。

3)制限のあるメールサーバ容量をいたずらに占拠している。

4)ウイルス伝播の可能性がある。

以上です。通達事項は、本文にテキストとして(せいぜいHTMLとして)張り付ければ済む話であり、現状のワードファイル添付というやり方は、受け取る方にとって無駄が多いばかりで利点はなく、読まずに捨てられる可能性が高いと考えます。

添付文書の削減を、大学および病院各部署に提案いたします。

だいぶ経ちますが、全く無反応。

メールの話は瑣末なことなのでどうでもいいんですが、ここに来て5年、外から来た者として、根源的で重要な改革事項もずいぶん提言してきたつもりですが、全くもって腰が重い組織です。

とても私学とは思えない。それとも土地柄なのか? 私学はもっと自由で快活な雰囲気だと思ってやってきたのですが、その実態は、経営陣や上層部は地元の自称一流国立大学の医学部出身者で固められ、結局その国立大学の第二医学部に過ぎないんじゃないかと思い始めました。

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2007/09/30

世界的教授が研修医をリンチ−さよならサダ

前回(スミルノフ教授公式ウェッブサイト | 腕の毛長さ自慢)の続き。

「ぎゃははは、先生、あとで取るとき、きっと痛いわ。」

そう笑いながら、採血を終えた看護師は先生の腕にぐるりと紙テープを巻いた。あとで取るときに痛いのが予想できるのなら、こんな貼り方しなくてもいいんじゃないだろうか。我々、毛深人にとって、紙テープは最大の敵なんである。特に安そうな医療用紙テープは、肌よりもわざと毛にくっつくように作ってるんじゃないかと疑うほどなのだ。そろそろ3Mさんとかニチバンさんは、我々、毛深人の意見を取り入れて、肌への粘着性を強化し、それなのに毛にはあまりくっつかないという製品の開発に着手すべきだ。

毛深人1

ほうら、言わんこっちゃない。痛いんだよ。

毛深人2

痛い、痛い、痛いんだよ。はがすのに30分ぐらいかかっちゃったぜ。あの採血したおばちゃん、許せないぜ。許せない、許せない、許せない、ちくしょー。

先生はいつになく怒りが爆発してしまった。しかし、こんなことで採血室に飛び込んで的外れな文句を言うのは、世界的な教授にはとても許される行為ではないのである。

だが、この悶々とした怒りをどう晴らしてくれよう。世界的な教授といえど、先生だって人間なのだ。この怒りを何かにぶつけて解消したい。

そのとき、先生の頭の中に、ある一人の研修医の名前が浮かんだ。そう、サダである。サダといえば

■スミルノフ教授公式ウェッブサイト | チオラミール(イノバン)

この回でそのアホさ加減をさらしたところ、予想を上回る批判が全国から集中してしまい、

■スミルノフ教授公式ウェッブサイト | 続・チオラミール(イノバン)―研修医は僕らの鏡

この回では先生がサダを擁護しなきゃならなくなったという、まあそのようなアホで手のかかる研修医である。であるから、先生が鬱憤を晴らすための相手としては大義名分が立つ都合のよい相手なのであり、しかも、

さだの毛3

サダの手は超毛深い! 先生のように繊細で長い毛なのではなくて、そりゃあもうまさに剛毛と呼ぶにふさわしい剛毛が、ところ狭しと生えている手なのである。これを利用しない手はない。

「あのー、サダ、ちょっとこっちに来なさい」

「な、なんですか急に」

「いいから、ちょっと話があるんで先生のそばに来なさい」

そしてサダが先生の近くに寄ってきたとき、先生は作戦を実行した。

さだ4

「あー、先生! 何んてことするんですか!」

先生は、後ろに隠し持っていた3Mのテープを、油断したサダの前腕にグルグル巻いたのだった。

「えーっとね、サダ、そういえば先生は、こないだのチオラミール(イノバン)という失態に対して、まだお仕置きをしていなかったね」

「ええ? そんな前のことで今頃……」

「いや、先生、本当は理由なんてどうでもいいんだけどね。ふっふっふ」

先生の冷酷で残虐な行動には、もはや歯止めがきかなかった。そうして先生は、ついにサダの腕に貼ったテープを思いっきり剥がし始めたのだった。

「ぎえぇぇぇー!」

さだ5

研修医室と名付けられたが実はスタッフが食堂として使っているその狭い部屋に、サダの悲鳴が轟き渡った。

さだ6

「せ、先生、いくらネタに協力するとはいえ、本当に痛いんですけど。俺、涙出てきました」

サダの目には、本当に涙が浮かんでいた。

サダは翡翠科に6ヶ月もいてくれた奇特な研修医で、もうすっかり翡翠科スタッフのごとく溶け込んでいたが、そんなサダとも9月いっぱいでお別れということになってしまった。翡翠科のみんなもサダのことが大好きで、サダの最後の日には何か特別なことがしたいということになり、先生とローリーは、サダの全身の毛を剃ってそれをテーブルの上に置きサダがどれだけの体毛を持っているのかを一目で明らかにするイベントをしたいと提案したのだが、残念ながらサダに断られてしまった。

ああ、寂しいよ、サダ。ウソだよ。小児外科医という、我々の天敵になるというサダ、どうせもうすぐしたら、「あ、翡翠科の先生、手術台もっと上げて」などと上から目線で俺たちをこき使うに違いないんだ、だから、もう君のことは一生思い出さないよ、さようなら、サダ。

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