2016年に読んだ本私的第3位
第3位 乾くるみ スリープ (ハルキ文庫)
2015年のベスト5では、遅まきながら乾くるみのデビュー作「Jの神話」を読んで衝撃を受け、第2位にランクさせてもらいました。
実を言うと私、かの有名な「イニシエーション・ラブ」が好きになれなかった口なんで、ちょっと乾くるみは敬遠してたんですけど、あれからほとんどの作品を読んでみました。
それで一番面白かったのがこれ、「スリープ」です。
賛同は得られないかもしれないけれど、乾作品では、もっとも「Jの神話」に近いんじゃないかな、と言ったら「スリープ」に失礼だろうか。どちらもほとんどSF小説だし、主人公は美少女たちだ。もちろん、「J」よりもずっと洗練されている。
果たして生物を生きたまま何年も冷凍保存し、そして生きたまま無事に解凍することは可能なんだろうか? この問いに対する理論武装はさすが理学部数学科出身なだけある。私は充分納得させられた。だから、近未来の現実として、かなりのリアリティを感じながら読めたと思う。ただし、いくら理論が正しくても、技術的に可能かどうかはまた別の問題である。まあそれが、この物語の核心である、ともいえる。これ以上は言えないが……。
SFだけどまるで現実のように思わせる筆力、本格ミステリィに匹敵する伏線とその回収、そして意外な結末、ホラー、サスペンス、ハードボイルドのように目まぐるしく展開するストーリー、おまけに見方によっては純愛を描いたとも言える恋愛小説でもある。よくぞこれだけの要素を贅沢に全部つぎ込んで、こんなおもしろいエンターテイメント小説を書いてくれたもんだ。
なんといっても、主人公の美少女たちがいいね。「羽鳥亜里沙」はもちろんのこと、「鷲尾まりん」もいい。それから、ヒロインのアリサの相手役の「戸松鋭二」って、素粒子物理学の戸塚洋二先生から取ったんだろうか。
乾くるみの小説といえば、さえないオタク男か、さもなきゃ天童太郎みたいな性格にひとつもいいところがない嫌な男とか、そんなんばっかり出てくる印象があるけど、もっとこういう美少女キャラ主人公にしてがんがん書けばいいのに。上手なんだから、きっと売れまくるのになあ、もったいない。
※よく読んだら文中に重大なネタバレを書いてしまっていました。もし未読の方が気づかれましたらゴメンナサイ。まあでも読んでるうちに気づくよな。少なくとも麻耶雄嵩よりは親切。
2016年に読んだ本私的第4位
第4位 森博嗣 キウイγは時計仕掛け KIWI γ IN CLOCKWORK (講談社文庫)
私、森博嗣先生の作品はだいたい読んでいて、小説はもちろんのこと、エッセイやウェブ日記本までほとんど読破しています。なので、だいたい氏の考えていることは想像できる(と自分では思い込んでいる)し、そろそろ最終作品を書き上げて隠遁生活に入る時期が近づいてきた今日この頃、結論めいたものも見えてきたのかなあと感じています。
なので、特にWシリーズなど、近年の作品ははっきりいってあまり面白くない。まあこっちも面白さを期待して読んでいるわけではないので、別に文句はないのです。しかし、この作品は久しぶりに楽しみながら読めました。
シリーズ登場時は学生だった加部谷、雨宮、山吹、海月といったおなじみの面々、本作では社会人となってそれぞれ別々の道へ進み、そして処女作から長きに渡って登場し続ける西之園萌絵、犀川、国枝も、すっかり偉くなってしまいそれぞれ別々の大学で教鞭をとっている。
だからもう、お前ら二度と集まんなよ!
なぜかって? だって、お前らが一同に介したら、絶対に殺人事件が起きんに決まってんじゃん。これ以上凄惨な事件が起きるのは勘弁して欲しいんだよ。だから集まんなって。
ところが集まっちゃうんだな。だって、全国学会の年次総会だもの。いやあ、うまいこと考えましたね、学会があるから集まらざるをえないもの(でも考えたら加部谷と雨宮はちょっと強引な招集だったな)。
で、やっぱり学会開催中に、学会会場で殺人事件が起こる。ところが、学会自体に思いのほどの影響はなく、年次総会はほとんど滞りなく日程を消化していく。殺人事件はすぐそばで起きているのに、多くの学会参加者たちにとって、それはまるで彼岸の出来事のようだ。
そして、読者の私にとっても、殺人事件自体はどこか絵空事のようで(ま、元々絵空事なのだが)、加部谷ちゃんと発表して質疑応答できんかなーとか、山吹が座長なんて大丈夫なんかなーとか、そんなことを興味の的にして楽しみました。
つまり、この作品は、ミステリィの体裁を借りた「学会小説」なんですね。と、私は思いました。
ということで、残りは3つだな。続きは後日。完結できるかなあ。
2016年に読んだ本私的第5位
年間100冊はミステリィを読みたいと思っているのですが、なかなかそうもいかず、昨年も約50冊ほどにとどまってしまいました。しかし、(2015年に読んだ本ベスト5)でせっかく私的ランキングを始めたので、今年度も敢行したいと思います。繰り返しになりますが、新刊の単行本はほとんど読まないし、気長に文庫化を三年待つ、いや、某大型古書店に流れて値崩れするのを待つ、というのがふだんの私です。ですから、今更感満載のしょぼいランキングになるのは目に見えているのですが、そこはなんとかご容赦いただきたくお願い申し上げるしだいです。
第5位 深水黎一郎 テンペスタ 最後の七日間 (幻冬舎文庫)
一昨年、私の必読作家の仲間入りを果たし、「ジークフリートの剣」が堂々の第一位を獲得した深水黎一郎氏です。私にしては珍しく「ミステリー・アリーナ」は文庫化を待たずに買ったし、今年文庫化された3冊もすぐに買って読みました。
この中では、客観的にはやはり「ミステリー・アリーナ」がオススメで、エンターテイメント性に過ぎるほどおもしろいです。「大癋見警部の事件簿」もかなり笑えます。一方、「美人薄命」は著者の(本来の)高い文学性を伺わせる美しい作品。
さて、私が選んだのは「テンペスタ 最後の七日間」、めちゃくちゃおもしろいかと問われればそうでもない、めちゃくちゃ文学性が高いかというとそうでもない、この中では一番中途半端かもしれないこの作品が、なぜか一番印象に残りました。――元々はテンペスタ~天然がぶり寄り娘と正義の七日間~という作品です。著者はなぜか文庫化の際の改題がとても多い。
主人公は江戸時代の処刑場について造詣が深い小学校五年生の少女ミドリ(この設定だけでもリアリティに無理がありますが……)と、伯父の賢一のペアです。私は最初、ミステリィかと思って読み始めたのですが、いつまでたっても事件らしい事件が起きず、変だなあと思いながら読み進めました。処刑場跡など著者お得意の古典的な薀蓄を織り交ぜながら、一週間にわたる伯父と姪の心の交流を描いた、ほのぼのとしたドタバタコメディ、といった趣きです。――そういえば芸術探偵シリーズも伯父(海埜警部補)と甥(神泉寺瞬一郎)の関係ですね。ひょっとすると深水さんは子どもがいないのだろうか?
さてところが、(この先、多少ネタバレになりますが)物語は最後の七日目、突然雰囲気ががらりと変わり、捉えようによってはなんとも後味が悪いとも言える意外な結末を迎え、読者をびっくりさせます。
長編小説では、特にミステリィの場合は、読者を飽きさせずに最後まで引っ張っていくため、途中にいくつかの山場や謎、伏線と思える場面などを綿密な計算のもとに設けるのが普通だと思います。ところがこの作品は、山場らしい山場もなく、すっかりほのぼの小説だと思わせておいて、最後に読者を突き落とす。
めちゃくちゃ面白かったわけでもなく、むしろモヤモヤの残る、どちらかといえば腹立たしい結末に唖然とするとともに、なぜこうした?という疑問しか残らないのですが、それがかえって強く印象に残る結果となりました。
ひょっとすると、このキャラがたったコンビ、今後は小学生名探偵ミドリとワトソン役の伯父として登場し、新たなミステリィ・シリーズとなっていくのではないか? そう思いました(たぶん、ないと思うけど)。
とりあえず本日は第5位だけ。続きは後日。これ、完結できるかな。一年かかったりして。
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