2012/02/29

頭ミルノフ教授 その7

頭ミルノフ教授その7の1

頭ミルノフ教授その7の2

閃輝暗点は片頭痛の前兆として有名ですが、頭痛が来ない閃輝暗点も珍しくないようです。先生は以前片頭痛に悩まされていた時期がありましたが、幸いトリプタン系の薬剤がよく効きます。現在はトリプタン系の薬剤をお守りのように持っているだけで頭痛が起こらなくなりました。ただ、頭痛の起こらない閃輝暗点がよく生じます。初めて経験したときは、パソコンのモニターが急に見えなくなったのでものすごくびっくりしました。

さて、次回こそは最終回といきたいものです。


2012/02/28

頭ミルノフ教授 その6

頭ミルノフ教授その6

最終回の予定でしたが延長します。群発頭痛が出てなかったなあと思ったもので。


2012/02/25

頭ミルノフ教授 その5

頭ミルノフ教授その5

"今までに経験したことのないような頭痛"といえば"くも膜下出血"というのが教科書的ですが、先生はこれまでに(といってもだいぶ昔のことですが)、全くあるいはほとんど頭痛の無いくも膜下出血を少なくとも二例経験しています。夜間当直ぐらいしか外来患者を診る機会のない先生でさえ二例ですから、ほんとうはもっとたくさんあるんではないでしょうか。


2012/02/24

過剰包装その2

過剰包装1

アマゾンから頼んでいた本が届きました。あれ、薄くて小さな本一冊だけだと思ったんだけどな、他にもなんか頼んであったけな?

過剰包装2

やっぱりあの一冊だけだ。ぷぷぷ、笑える……。

過剰包装3

先生が買ったのは、新訂版 感染症診療の手引き―正しい感染症診療と抗菌薬適正使用を目指してです。とても小さな冊子です。アマゾンには17.2x9.7x3.7cmって書いてありますが、実際には160x90x3mmしかありません。ちなみに重さは約60g。対してアマゾンのダンボール箱は皆さんおなじみのXM04で、大きさは330x250x115mmです。

過剰包装4

厚さがたった3mmの小冊子です。これ一冊のために330x250x115mmのダンボール箱……。

過剰包装5

ちなみに、なぜアマゾンが一見これほど無駄に見える包装をするのか、その理由は先生すでに知っていますので、わざわざ教えてくれなくていいです。

そんなことよりも、このエントリーの題名、「過剰包装その2」ですが、どうして「その2」なのか、という疑問を抱いていただきたいと、先生は思うのです。

答えは、もちろん「その1」があるからです。これ↓

■過剰包装(その1)|スミルノフ教授公式ブログ(2004/01/05 月)

うわっ、古! 何年ぶりの続編よ!


2012/02/23

トゥー・ビー・リアルの記憶

大学でジャズバンドに入門したとき、それまではピアノを弾く自分自身がいつも主役だったので、歌を伴奏するという概念になかなかなじむことができず戸惑っていた。
先輩から「君はもう少しピアノのバッキングを勉強してくれ」と迷惑そうに言われてしまったので、僕は玉光堂へ行って参考書を探した。見つけたのは、有名なキーボーディストたちのバッキング・パターンを集めた教則本だった。中でも印象に残ったのは、デビッドなんとかという人の項目に載っていた次の譜面である。

score

このたった二小節の繰り返しが僕を虜にした。朝から晩までひたすら繰り返し弾いて過ごす日もあるほどだった。しかし、そこにはアーティスト名しか記載されておらず、曲名は載っていなかったので、その後10年以上ものあいだ、僕はその二小節がいったい何という曲の一部なのか、全く知らずに過ごすことになった。

「お前には今日から犬の運搬を担当してもらう」
筋肉の盛り上がった太い腕を胸の前で組んだスティーブが言った。ブロンドの髪と青い瞳は僕の頭上の遥か彼方にあった。
「お前は動物センターに行ったことはあるか」と訊かれたので、ないと答えた。スティーブはじゃあ着いてこいと言って大股で歩き出した。

地下の薄暗い通路を通って別棟に移動し、エレベーターにのる。そこが動物センターと呼ばれるビルディングだった。スティーブは最上の6階のボタンを押した。
「まずセンター長にお前を紹介しよう」

6階でエレベーターを降り、スティーブがセンター長室と書かれたドアをノックして返事も待たずにすぐ開けると、書類に埋もれたデスクに向かって座っているサングラスの黒人男性がいた。男はこちらを振り向くと、サングラスをゆっくりと外して鋭い眼光を僕に向けた。僕は一瞬、彼はあの有名なJBなんじゃないか、と思った。JBは今どうしてるだろう? たしか、何年か前に釈放されたはずだ。そのあと、ここで働いているのだろうか? あの偉大なJBが? まさか。

「こいつが今日から犬の運搬を担当する日本人だ」スティーブが僕を紹介した。
「よろしく、坊や」
そう言ってJBは僕の手を取って握手した。そのとき彼は自分の名前を名乗ったのだけれど、今となってはどうしても思い出せない。もちろんそれがJBではなかったことだけは確かだ。

「おい、この坊やを案内してやりな!」
JBはしゃがれた低い声で傍らの部下らしき黒人に命じた。
「オーケー坊や、おれに付いてきな、ヒッヒッヒ」
部下は奇妙な声で笑いながら歩き出した。ふくよかな頬に髭を蓄えたその顔はバリー・ホワイトを連想させる。水色の手術着の半袖から飛び出した太い腕は黒々とした光沢を放ち、大きな臀部は歩くたびに左右に躍動した。
「じゃ、俺はここで。こいつをよろしく」とスティーブが言うと、バリーは満面の笑みを浮かべて
「★*∀§▲ЖАД!」と返した。スティーブはにこにこしていた。僕はよく聞き取れなかったので、スティーブに「今バリーは何て言ったんだい?」と訊いた。するとスティーブは外人がよくやるように肩をすぼめて「さあね」と言った。「黒人のスラングじゃないかな。俺には分からんよ」

スティーブと別れ、バリーについてエレベーターをひとつ降りると、ドッグフードと獣糞の混ざりあった臭いが鼻をつき、すぐにそこが犬の飼育室だと分かった。床を水掃除をしている別の黒人がケージの入っているドアを開け閉めするたびに、犬たちが吠えてその声が廊下に鳴り響いた。

「こういうところで働くのが俺たち黒人の役目なのさ、ヒッヒッヒ」
バリーは意味ありげに笑いながらそう言った。
「坊や、有色人種同士、仲良くやろうな、ヒッヒッヒ」と彼は続けた。

だが、センターで動物の世話をしているのは黒人ばかりではなかった。となりの部屋から長靴姿でホースを手に出てきた老人は、がっしりとした体格の背の高い白人だった。白髪で高い鼻を持ち、べっ甲フレームの老眼鏡をかけているせいで、もともと大きな灰青色の瞳がよりいっそう大きく見えた。実は僕の知っている男だった。彼は昼休みにカフェテリアへ行く途中の廊下でよく見かける老人だった。白人にしてはどこか挙動がぎこちなく、いつもみすぼらしい服装をしているのでなんとなく気になっていたのだ。そのうち目が合うようになり、お互い軽く挨拶を交わすまでになっていた。でも名前までは知らなかったので僕は心の中で勝手に彼のことをヘンリー・キッシンジャーと呼んでいた。

コービーで大地震が起きた翌日のことを思い出す。僕がいつものようにカフェテリアに向かって廊下を歩いているとき、ヘンリーは僕を見つけるやいなや、ものすごく心配そうな顔で近寄ってきた。「お前の家族や友人はだいじょうぶだったのか?」とヘンリーはたどたどしい英語で僕に訊いた。僕はそのとき初めて、ヘンリーがあまりうまく英語を話せないことを知った。だいじょうぶだ、と答えたのに、ヘンリーは僕をがっしりと抱きしめて僕の頭を両手でぐるぐると撫で始めたのだ。「ああ、かわいそうな子、かわいそうな子」と泣きながら。

あのときから僕はますますヘンリーのことが気になっていた。彼はどうしてみすぼらしいんだろう、彼はどうして英語が下手なんだろう。そしてもうひとつの疑問が加わった。彼はどうしてこんな汚いところで働いているんだろう。

犬の部屋から出てきたヘンリーは僕に気づくと笑顔になって、「やあ」という感じで目配せした。
「あいつは最近、東欧からやってきたんだ。まだ英語が覚えられねーんだってさ、ヒッヒッヒ」
バリーによると、どうやらヘンリーは東欧から内戦を逃れてアメリカに渡ってきたらしい、ということだった。

「ここは有色人種と、それから英語が不自由な奴のための職場さ。坊やにはうってつけってことだな、ヒーヒッヒッヒ」バリーの笑い声がいっそう高く響き渡った。

「次は地下の動物手術室に案内しよう」とバリーが言った。

エレベーターに乗ると、その窓からは財団施設の広大な敷地を見渡すことができた。僕の職場のある研究棟やこの動物センターの他にも、様々な機能を有したビルディングが建ち並んでいる。数百メートル先には最近完成したばかりのエジプトのピラミッドを模倣したビルディングが見えた。それはこの財団のメインとなる病院施設で、世界中から大金持ちの患者が集まり、世界中からヘッドハンティングされてきた高給取りのエリートドクターたちが働いている。僕は太陽の光を浴びてぎらぎらと輝くピラミッドの一面を見つめながら、犬の毛と糞尿にまみれた今の自分はいったい何をしに、はるばるこの国までやって来たのだろう、と考え始めた。こんなに虚しくて寂しくてどうしようもなくなったのは渡米してから初めてのことだった。目の前ではよく知らない巨体の黒人がわけの分からないブラックミュージックを口ずさんでいる。そしてエレベーターは動き始めた。絶望に打ちひしがれた僕は地下へと潜っていく。地下へ、地下へ、地下へ……。これは夢なんじゃないだろうか。ほんとうは僕はまだ日本にいるんじゃないだろうか。コービーの大地震も、デンジャラスな地下鉄サリン事件も、そして僕がどこかの遠い外国で犬の糞を始末している姿も、全部夢なんだ。そう思いたかった。

ガタンと音がしてエレベータが止まり、そのドアが開いた。一縷の光も漏らさない地下に作られた動物手術室は闇に包まれていた。バリーが照明のスイッチを入れると、排水溝のついたコンクリートの床、汚れた古いタイル張りの壁、まるで台所の流しのような手術台、そしてピストン部分が剥き出しの原始的な人工呼吸器が現れた。手術台の上には刃が錆びて毛だらけのまま放置されている電動バリカンが転がっている。

「おれはいつも音楽を流しながら仕事するんだ」とバリーは言って、人工呼吸器の隣に置かれた古いラジオのスイッチを入れた。僕の知らないソウル音楽が大音量で流れだした。チューニングダイヤルの錆びつき具合からして、そのラジオはもうずいぶん長い間ソウルチャンネルに合わせたままであると思われた。アンテナは地上から引いているようだが電波状況は良いとはいえず、バリーが動くたびに音楽に耳障りなノイズが混じった。

僕の知らない曲が終わってから数秒の沈黙ののち、鋭いブラスサウンドのイントロが僕の耳をつんざき、引き続いて何度も聞いたことのあるあのピアノのリフが始まった。

「これだ、この曲だ!」と僕は目を見開いてラジオを見つめた。

間違いない。

本物を聞くのは初めてだったが、このリフは僕が学生時代にあの譜面を見ながら何度も弾いたものに間違いなかった。ピアノのリフに引き続いて、黒人女性と思われる伸びやかな声がライブな地下室に響き渡った。バリーはフゥーッと高い声でシャウトしたあと、そのリズムに合わせて大きなお尻を左右に揺らし始めた。

そうか、こういう曲だったんだ。

僕にとって長年の謎であったピアノ・リフに今まさにカタルシスが訪れようとしている。

「あのう、ノリノリのところ悪いんだけどさ」
フゥーとかワオとか叫びながら踊り続けるバリーを制して僕は訊ねた。
「これって誰のなんて曲だい?」

「なんだって?」彼は踊りを止めてエクスキューズミーと言いながら耳を近づけてきた。
「これブラックミュージックだろ? 誰のなんて曲だい?」
バリーは僕の耳から離れて姿勢を正した。
「申し訳ない。おれは曲名は知らない」
「えっ?」と僕は目を丸くした。
「毎日ラジオをつけっぱなして聞いてるだけさ。誰の何ていう曲かなんて、おれは気にしたことなんかないね、ヒッヒッヒ」

結局、その曲がシェリル・リンという黒人女性ヴォーカリストのトゥー・ビー・リアルという曲であり、デヴィッド・フォスターとデヴィッド・ペイチといういずれも白人のポップス・プロデューサーが手がけた、ということを僕が知ったのは、それから何年かあとに日本に帰国して、さらに何年か経ってインターネットが一般に普及してからのことであった。

■ Cheryl Lynn - Got To Be Real
to be real

ある日の昼休み、いつものように「めし、めし」と言いながらスティーブとペンタラスが出ていった。
二人は僕が日本食の弁当持参なのを知っているので、僕を昼飯に誘わないのだ。
そしていつもなら、僕はひとりだけになった部屋でひっそりと弁当のふたを開ける。
すると、あいつらが嫌がるごはんの臭いが部屋に充満する。
だけど今日は弁当のふたを半分開けたまま、僕は少し戸惑っていた。

「ライスの臭いがするけど、いいのかい?」

昼休みを返上してデータ解析をする学生がまだそこに残っていたのである。
彼の名はジョージといった。ギリシャからの移民の子で、人種や民族の習慣の違いにはわりと無頓着なところがあった。

「まったくかまわないよ」と彼は言った。そしてデータに落としたままだった視線をふと僕の方に向けると、「かまわないどころか、僕はライスが大好きさ。ねえ、日本人はタイ料理を食べるかい?」と訊いてきた。食べたことはないけど――と僕が答えると、彼は「カレーの上手いタイ料理の店を見つけたんだ。こんど一緒に食べに行こう」と言った。日本人を別け隔てなく誘ってくれるのはこの実験室ではジョージくらいなものである。
「ありがとう。よろこんで行くよ」と僕は笑みを浮かべた。

「音楽をかけてもいいかな?」飯を食い終わった僕はデータ解析を続けるジョージに確認した。
「もちろん」
僕はラジカセにカセットを入れてスイッチを押した。

「マイケル・ジャクソン?」とジョージが怪訝な表情で顔を上げた。
「ごめん。嫌いだったかい?」世界も広ければマイケルが嫌いな人も存在するのだろうか、と僕は考えた。
「いや、別に嫌いでもなんでもないけど、君は日本人だろう」
「もちろん、そうだけど」
「黒人じゃないのにどうしてマイケル・ジャクソンなんか聞くんだ?」
ジョージはとても不思議そうに僕の顔を見つめていた。

ここはニューヨークでもなく、ロスアンゼルスでもなかった。

ここは日本人の知らないアメリカであり、そして日本人を知らないアメリカだった。

(註:”記憶”シリーズはフィクションです)


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