ジョニサコの記憶
これは、ミスターロボットの記憶の続編である。
前回までのあらすじ:ペンタラスが初めて覚えた日本語は、子どもの頃に聞いたスティクスのミスター・ロボットの冒頭に出てくる「ドモアリガト」であった。僕はスティーブにも初めて覚えた日本語が何かを聞いてみた。くだらない質問だと真面目な彼にバカにされるおそれもあったのだが、意外な反応がかえってきた。
スティーブは僕とペンタラスを順番にわざとらしく見つめ返して、十分にもったいつけてから答えた。
「ジョニサコ」
僕とペンタラスはしばらくのあいだ目と口をだらしなく開けたままだったと思う。
「ジョニサコだって? いったいそりゃ何だ? ほんとにそれ日本語なの?」とやっと僕が聞き返すと、スティーブは
「あれ? たぶん日本語だと思うんだけど、お前知らないのか? 日本の少年の名前だ。その少年はロボットを持っているんだ」と言った。
「ロボット?」と僕とペンタラスが同時に聞き返した。
「そうだ。空を飛ぶ巨大ロボットだ。ジョニサコは腕時計みたいなコントローラーを持っていて、それに話しかけることによってロボットを操縦するんだ。ちょうど、こんなかんじだな」
スティーブは左肘を曲げて腕を上げ、腕時計を口を近づけてしゃべり始めた。
「ロボ! やれ! やるんだ!」
以下、何かがのりうつったようなスティーブが熱弁をふるい続けることになる。僕とペンタラスはただそれを聞いているしかなかった。
「敵はギロチン帝王っていうんだ。こいつが悪いヤツでね、地球征服をたくらんでいる」
「最終回では巨大なギロチン帝王が我々ユニコーンの目の前に姿を現すんだ。そこでジョニサコはロボットに命令する。ロボ! やれ! やるんだ!」
「カシャーン……。ところがどういうわけかロボットはガス欠みたいになっちまってさっぱり動かなくなってしまうんだ」
「ロボ! どうしたんだ?」
「シーン……。やっぱりロボは無反応だった」
「ところがこれはやはりギロチン帝王の策略だったんだな。ウヒヒヒヒ、うまく引っかかったな。今までの戦いでロボの原子力エネルギーはもう一滴も無いのだ!」
「わしは原子力エネルギーの塊だ。わしを撃ったら地球は木っ端微塵になってしまうぞ! ロボはもう何も出来ない。地球人よ! このギロチン帝王は今よりこの地球の支配者になるのだ!」
「ハハーッ」
「おい、これはもらっておくぞ。敵の手下がジョニサコのコントローラーを奪おうとした」
「と、そのときだった。ウィーン、グギーグギーギーッ! ロボは突然光りだし、再び動き出したのだった」
「ジョニサコは重要なことを思い出した。あ、そうだ。ロボには万一のときに備えて、新しく補助エネルギーが装置されていたんだ。それで今動き出したんだ」
「ジョニサコはコントローラーに向かって叫ぶ。行け!ロボ!」
「ロボはギロチン帝王と戦いだす。だがしかし、ジョニサコはさっき聞いたばかりの大事なことを忘れていた。おい、わしは原子力エネルギーの塊だと言っただろ。このわしとロボを戦わせてみろ。ロボもろとも地球は吹っ飛ぶぞ!」
「はっ、そうだった。慌てるジョニサコ。ロボ、や、やめろ、やめるんだ! 地球が危ないんだ! Robo! Now stop! Don’t do it !」
「そのときだった。ロボはギロチン帝王を身体全体でガシッとつかまえた。な、なにをするんだ、と慌てるギロチン帝王」
「そうして、そのまま空に向かって飛び立つロボ」
「ロボ! どこに行くんだ!」
「Robo! Where are you doing ?」
「ロボ! 帰ってこい! ロボ!」
「Robo! Come back! Robo!」
「ロボのばか! 何をするんだ!死ぬぞ!」
「そのとき、赤く燃ゆる巨大な隕石が向こうから飛んできた」
「Don’t do it!」
「接近する隕石」
「ロボ! 僕の命令をどうして聞けないんだ! Robo! Please! Don’t do it ! Don’t die ! Robo! Please come back!」
「そして……」
「ジャイアントロボー!」
「ロボは、ロボは自分を犠牲にして地球を救ったのよ! ちなみに英語版だとここは、Robo, good-bye. I'm sorry you had to do it...とかいう簡潔な英訳になっています」
「ジャイアントロボー!」
「ジャイアントロボの崇高な自己犠牲の精神に思わず敬礼をするユニコーン」
「さよならジャイアントロボ、さようなら! でもまたいつの日か、ロボは帰ってくるだろう!」
「この最終回で、俺の両頬はもう涙でぐちゃぐちゃだったよ」とスティーブは感慨深けに締めくくった。
そして、ふと左腕のコントローラーに再び目をやった。
「あれ、もうこんな時間じゃん! おい、めしめし。めし食いに行くぞ」とスティーブはペンタラスの肩をたたいた。
二人は部屋を出ていった。 部屋の中は僕ひとりだけになった。二人は僕が日本食の弁当持参なのを知っているので、僕を昼飯に誘わないのだ。
僕はこうしていつもひとりだけになった部屋でひっそりと弁当を食べる。
弁当のふたを開けると、あいつらが嫌がるごはんの臭いが部屋に充満した。
ジャイアントロボがJohnny Sokko And His Flying Robotというタイトルで米国でも放映されていたことを知ったのは、僕が帰国してからもう何年も経ったあとだった。主人公の少年・草間大作の名前が、Johnny Sokko(靴下ジョニー)という英語に置き換えられていたものの、幼少のスティーブはそれを日本語だと勘違いしてしまい、そのまま大人になってしまった、というのが真相らしかった。
今ひとつオチが弱かった気がするので、オマケをつけておく。
「ロボ、爪伸びてるぞ!」
ミスターロボットの記憶
午前の仕事が一段落したものの昼休みにはまだ少し早い時刻だった。
「あ、そうだ、ペンタラス……」
僕はペンタラスに文献のコピーを頼まれていたことを思い出し、彼にそれを手渡そうとした。
すると、小柄なペンタラスはまるで赤ん坊のように満面の笑を浮かべた。「ああ、例の論文だね」そして、ギリシャ人特有の濃くて彫りの深い眉目を開きながらこう言ったのだった。
「ド・モ・ア・リ・ガ・ト……」
「ドモアリガト? 日本語じゃないか」と僕は驚いてみせた。
「ちょ、ちょっとこっちへ来いよ」ペンタラスは周りをきょろきょろしながら僕の腕をつかみ、実験室の隅まで引っ張っていった。「スティーブに聞かれるとバカにされるからさ……」とペンタラスは顔を赤くしながら小声で言った。
「ドモアリガット ミスターロボット マータァウヒマデー♪」ペンタラスは囁くように歌ってみせた。「僕が子どもの頃に流行った歌だ。そして、僕が初めて覚えた日本語なんだ」
「プ、ププ」僕はちょっと吹き出してしまって、ニヤニヤ笑いを止められなくなった。ペンタラスは怒り出した。
「笑うなよ。僕は君より若いんだ。小学生だったんだぜ」
もちろん皆さんご存知かと思うが、この曲のことである。
■ MR. ROBOTO by 五十嵐信次郎とシルバー人材センター
ちょっと間違った。オリジナルはこちらである。
ボーカルのデニス・デ・ヤングの極端なSF主義を支持するかどうかで評価が別れる楽曲とアルバムであった。ちなみに当時すでに大人だった僕のまわりの反応は、唇で「ぷっ」と嘲笑するか、鼻先で「ふん」と息を漏らすか、喉の奥から「はあ」とため息を吐くかの、いずれかに別れていたように思う。
このPVからも、やけに力んで熱唱するデニス・デ・ヤングとは対照的に、他のメンバーからは、そこはかとなくイヤイヤ感が滲みでてしまっているように見受けられる。
「普通バンドってものはよお、音楽性の違いだかで揉めるもんだろ。ロックかロボットかで揉めるなんて世界でもうちのバンドぐらいなものだろ」と、ギターのトミー・ショウは後年語った、というのは全く僕の妄想である。
実はもう何年も前になるけど、かつてこの曲について記事を書こうと思ったことがあった。「キルロイとは何か」について書こうとしたのだ。ところが、キルロイについては、かなり奥深い解説を掲載しているウェブサイトが当時すでにあり、僕にはとてもそれ以上のことを書くアイデアが浮かばなかったのだ。
さて、話の舞台を95年に戻そう。そう、今まで言ってなかったけれど、この「記憶」シリーズの舞台は95年ごろのアメリカ中西部なのである。
「なにを話していたんだ?」
僕とペンタラスが部屋の隅でこそこそと話しているところにスティーブが戻ってきた。スティーブはペンタラスとは対照的な筋骨たくましい長身のゲルマン人である。質実剛健で、愚直に過ぎるところはあるが我が職場のリーダー的存在だ。
「あ、あのさ、スティーブは知ってる日本語ってある?」
「どうしてそんなことを聞くんだ」
「今話してたんだけど、ペンタラスが初めて覚えた日本語ってえのがさあ……」
ペンタラスが慌てて「シャラップ!」と遮るのも構わずに、僕はミスター・ロボットの話をばらしてしまった。
鼻で笑うかに思われたスティーブだったけど、その反応は意外なものだった。
「僕はあまり日本語というものを知らないけれど」
「何か知ってるんだね? 初めて知った日本語は何?」
「それは子どものときに見たテレビ番組で覚えたんだ」
「テレビ番組か。それでなんて言葉だい?」
スティーブは僕とペンタラスを順番にわざとらしく見つめ返して、十分にもったいつけてから答えた。
「ジョニサコ」
僕とペンタラスはしばらくのあいだ目と口をだらしなく開けたままだったと思う。
「ジョニサコだって? いったいそりゃ何だ? ほんとにそれ日本語なの?」とやっと僕が聞き返すと、スティーブは
「あれ? たぶん日本語だと思うんだけど、お前知らないのか? 日本の少年の名前だ。その少年はロボットを持っているんだ」と言った。
「ロボット?」と僕とペンタラスが同時に聞き返した。
さあ、ジョニサコとはいったい何か? スティーブ自らが熱く語るジョニサコの謎、次回ジョニサコの記憶に続く!!
おまけ:ミスター・ロボットはニコ動のほうがとっても楽しめますよ。
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