うぐいす餅はうぐいす色か?
皆さん、こんにちは。スイーツブロガーのスミルノフ教授です。さて、三月のお菓子といえばやっぱりうぐいす餅ですよね。え? もう四月の終わりだって? いやー、先生ぜんぜん気がつかなかったなあ。だけど北海道のウグイスの初鳴きは四月だし、先生は今年ウグイスの声をまだ聞いていません。だからここはひとつオッケーってことにしてやってください。
写真は柳月のうぐいす餅の箱です。ここに描かれた鳥はいったいなんという鳥でしょう。もちろん皆さんはウグイスだとお思いですよね。そしてこの鮮やかな緑色は「うぐいす色」でしょうか。
でも先生はぜんぜんウグイスには見えませんよ。どうしてかっていうと、じゃあ先生が実際に撮影したウグイスの本物の姿をご覧いただこうじゃありませんか。この鳥がウグイスじゃないってことが一目瞭然ですよ。
ほらね、本物のウグイスは茶褐色であって、鮮やかな緑ではないんだよ。いや、そんなことは既にご存知の方も多いよね。昔の人がウグイスとメジロを間違ったから、いつのまにかメジロ色のことをウグイス色と呼ぶようになった、という話しがまことしやかに流れています。
これがメジロ。鮮やかな緑、そしてその名のとおり目の周りが白いです。でもなんでウグイスと間違ったかなあ。まあ無理もありません。これを見てください。
これって日本野鳥の会の通販のカタログで、壁掛け時計のページなんですが、よく見てください。拡大しますよ。
がーん。三月の鳥がウグイスなんだけど、写真がおもいっきりメジロじゃん! 日本野鳥の会でさえ間違えるんですから、もう誰が間違っても責められません(もちろん下請けの仕事でしょうし、あら探しをしているわけではないのですが、あまりにもタイミングよく届いたもので)。
さて、話をウグイス色に戻します。ごらんいただいたようにウグイスの本当の色は茶色です。でも世間一般のうぐいす色が鮮やかな緑でもあっても、先生はそれでぜんぜん構いませんよ。ブッソウポウと鳴くのは本当はブッポウソウじゃなくてコノハズクですが、今さら名前を入れかえようなんて誰も言わないのと同じです。
ところがいろいろ調べてみると、いや、別にいろいろは調べてないんですけどね、せいぜいみんなも好きなウィキペディアぐらいで。まあ、つまり、ウィキペディアの色名一覧 (う)と同じくJIS慣用色名を参照すると、ウグイス色が鮮やかな緑だっていうのは先生が思ってたほどには正式じゃない、ということが分かってきました。
手っ取り早く表にまとめてみますね。ちなみにうぐいす餅の箱の鳥の色は、撮影条件にもよるでしょうけど、先生が撮った写真からのRGB値です。
#93BD46 | 柳月の鶯餅のパッケージ |
#F9A1D0 | Wikipediaの色名一覧による鶯色 |
#6D5826 | Wikipediaの色名一覧による鶯茶 |
#71714A | WikipediaのJIS慣用色名による鶯色 |
#70613A | WikipediaのJIS慣用色名による鶯茶 |
「鶯茶」というのが気にかかると思いますが、そうです、これがウグイスの本来の色である茶色なんですね。そして「鶯色」は、鮮やかな緑ではなくて、本当はもっと褐色に近い暗い緑を指すようです。先生はこの緑褐色のほうが気にかかりました。ウグイスの本当の色は茶色、世間のウグイス色はメジロのような鮮やかな緑、なのにどうして業界ではウグイス色が暗い緑褐色なのか?
鶯色 - Wikipedia 鶯色(うぐいすいろ)とは灰色がかった緑褐色を言う。また、抹茶色に近い柔らかな黄緑色を連想する人もいる。 前者はウグイスの羽に忠実に取材した色であり、英語のオリーヴグリーン(olive-green未成熟のオリーブの果実の色)に近いが、後者はウグイスと同じく春先によく見かけられる野鳥のメジロの羽の色と混同されている。 また江戸時代中期には前者の鶯色がより茶色味がかった鶯茶が女性の普段着の色として大流行したため、当時「鶯色」といえばこちらの色を指す。
そうかなあ。「鶯茶」が本来のウグイスの色なんですよ。「抹茶色に近い柔らかな黄緑色」がメジロの色だとしても、ウグイスが「灰色がかった緑褐色」だとは思えません。ウグイスは茶色です。
それからウィキペディアの色名一覧 (う)にもおかしなことが書いてあります。
色名一覧 (う) - Wikipedia 鶯色 ウグイスの羽の色 鶯茶 ウグイスの背の色
おかしいなあ。先生のウグイスの写真を見てくださいよ。背中も羽も全身が茶褐色だと思いますけど。
ということで、先生の中では、この「本物の鶯色」とされている暗い緑褐色がどうしてうぐいす色なのか、ということが興味の中心になってしまいました。ウィキペディアの記述では全く納得がいきません。皆さんは興味ないでしょうけど。
しかし、世の中よく探せば物事をより深く考察している人はどっかにいらっしゃるものです。先生はこのサイトを見て、目からウロコが落ちました(もともと先生の目にウロコはないけれど)。
といっても、このマニアックな内容を先生のように目を皿のようにして(実際に皿のようにはなりませんが)見る人もあまりいらっしゃらないでしょうから、かいつまんでお話しします。特に先生はうぐいす色(鶯色)の歴史(2)を読んでわだかまりが氷解しました。もともと染料産業の世界でも江戸時代までは鶯色とは茶色だった。ところがウグイスを飼っていて(今は飼うことは難しい時代ですが)、間近にウグイスを見ていた当時の人々は、ときどき茶色の羽に陽光が反射して緑に輝く様を美しいと思った。そこで緑の成分を混ぜてそれを再現しようとしたが木綿ではうまくいかなかった。しかし、絹が登場し、その光沢を利用することで緑の成分が輝く「鶯色」が確立し、かつての鶯色であった茶色は「鶯茶」として区別されるようになった。強引にまとめると、そのような染料界における歴史があったということになります。
鳥の羽の色というのは案外複雑なもので、光線の加減や向きによって様々な色に見えることがあります。おなじみのカラスだって、実は黒一色ではありません。ときどき陽の当たる加減によって濃紺に輝いて見えることがあります。しかし先生は、緑褐色とはいえ、ウグイスが緑っぽく輝くところを見たことがありません。うぐいす色(鶯色)の歴史(2)に掲載されている写真を見るとたしかに緑の光を含んでいるように見えますが、ウグイスを身近な飼い鳥として飼っていた時代ならではの感覚だと思えます。
そこで先生は過去に撮影したウグイスの写真を調べてみましたが、今までにもっとも接近できたのはこれでした。
かわええ。ちょっと若いかな。でも残念ながら緑の成分は微塵も感じられませんね。やはり先生のイメージは、ウグイスは茶褐色で決まりです。
だいぶ話しが脱線しましたが、柳月がウグイスのつもりで描いた、あの鮮やかな緑の鳥に話を戻します。ウグイスは茶褐色であり、ときどき緑褐色に輝くらしいとしても、この鮮やかな緑の、すなわち世間一般にいうところのうぐいす色である鳥は何者なのだろう、少なくともウグイスじゃねーよな、という疑問が湧きます(そんな疑問を抱くのはたぶん先生だけでしょうけど)。
目の周りが白くないので、メジロではありません。その代わりに目の上に白斑があります。これで色が茶褐色だったらウグイスの認定をするところですが、ここまできた以上、そういうわけにもいきません。
そこで、この鳥なんかいかがでしょう。
センダイムシクイです。目の上に白斑があってウグイスよりもずっと緑色です。ただしお腹が白いのでやっぱり絵とは違いますね。ちなみにセンダイムシクイは「焼酎一杯グイー」と鳴くことで有名です。
ちなみにちなみにムシクイ類は似たり寄ったりで一目で鑑別するのがけっこう難しいんですが、このように頭のてっぺんの真ん中に白い線が見えたらセンダイムシクイである可能性が大です。なかなか頭を撮るのはたいへんなんだぞ(と、結局は野鳥写真のエントリーになっていく)。
ちなみにちなみにちなみにセンダイムシクイは別に仙台とは関係なくて、チヨという鳴き声を漢字で「千代」と書いたのをセンダイと読んだのがその名の由来だそうです。でも仙台虫喰って書くんだけどな。
さて、お待たせしました。だいぶ脱線したから腹が減った。さっそく箱を開けていただくとしよう。
あれ? もっと緑色かと思ったけど、意外に普通のきな粉(黄粉)の色してる。うぐいす餅っていうのは、うぐいす粉を使っているからうぐいす餅なんだろうか? うぐいす粉っていうのは青大豆から作るから緑がかっていて、そんで鶯色だからうぐいす粉っていうんだろうか? 違うのかな。もうめんどうになってきたぞ。
でも皆さんはもっとこうパァーっと鮮やかな緑色のほうがうぐいす餅って感じがするよね。例えばこんな感じ。
だけど、こんなのうぐいす餅じゃないぞ。本当のウグイス餅は、本当のウグイスの色をしてなきゃならん。
そう、これが先生の考える本物のウグイス餅だ。これが本日の結論。でもまずそう。
最後にひとこと。ウグイス考:鶯色、 梅に鶯にも出てくる話ですが、本当に昔の人はメジロとウグイスを間違ったのでしょうか。これを読んでいると、先生はメジロやウグイスを身近に飼っていた昔の人が両者を混同するとは思えなくなってきました。
先生は、実は逆なんじゃないかと考えるようになりました。つまり、「うぐいす色=鮮やかな黄緑色」というイメージが先にあるから、ウグイスを見たことのない人がメジロを見てウグイスだと思った、というのが本当のような気がしてなりません。先の日本野鳥の会のカタログを作った人も、うぐいす色の間違ったイメージが先にあったから、ウグイスとメジロを間違ってしまったのではないでしょうか。引用が引用を呼んで引用が増えると、それはいつのまにか事実となります。本当のことはなかなか分からないものですね。もちろん先生も本当のことをいっているつもりはさらさらありません。
追記:ウグイスの色の緑の成分について
仮性体臭さんから、先生の最後の写真には緑を感じるとのコメントをいただきました。このエントリーではウグイスの色は茶褐色(鶯茶)であり、光線の加減によっては「正式な鶯色」(茶と緑の間ぐらいの色、緑褐色、灰色に近い緑、オリーブ褐色などと表現される)が感じられると書きました。先生の最後の写真は、先生が今まで撮った野生のウグイスの写真から、もっとも「正式な鶯色」を感じられるものを探し出しました。それでも、先生は今までこの写真を撮った後でさえ、ウグイスは茶褐色一辺倒だと思っていたのです。仮性体臭さんが緑を感じたのも、このエントリーをお読みになってからじっくり見たあとだったからではないでしょうか。そういわれてみれば、単純な茶褐色というよりは黄土色、すなわち緑の成分を含んだ茶色に見えます。ですから、うまい具合に光線が当たったり、かなり接近して見れば、緑を感じることができるのでしょう。しかし、そういう機会はやはり飼い鳥の場合に多いと考えられ、野生でちらっと見ただけではなかなか難しいと思います。
ウグイスの羽を一本一本抜いて確かめることができればもっと情報が得られることでしょう。たしかに、実写が掲載されている原寸大写真図鑑 羽では、風切羽の一部の内側が「オリーブ褐色」と記載されています。あるいは昔の人は、抜け落ちた羽根をじっくり観察して「鶯色」を作り出したのかもしれません。一方、私の持っている日本の野鳥羽根図鑑、これは笹川先生のイラストですが、これには全体的にあまりかわりばえのしない茶褐色と記載されていました。長くなりましたが、コメントをいただいたので、参考までに追記しておきます。
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