意地を張る
風邪やインフルエンザが流行っています。皆さんは大丈夫ですか。こちらでは先生の部下の若者たちが次々と倒れています。それに引き換え、不思議と先生を含め、年寄り陣は元気です。ひょっとして、今年の風邪は若者にしかかからないのが特徴なのかな、と思ったら、違いました。単に、年寄りは年寄りらしく、潜伏期間が長いだけでした。そう、ついに先生も具合が悪くなりました。
最近は、少しでも具合が悪そうな若者がいると、年寄りは気を遣って、今日はもういいから、早く帰って休みなさい、といいます。ここで重症化して長期間仕事に穴をあけられる方が痛いからです。
でも、結構、若者は遠慮して帰らなかったりします。
「昨日は、言うとおりに早く帰ったかい?」
「いえ、意地を張って最後までいました。」
いいなあ、意地を張って。先生は意地を張れる若者がうらやましいです。先生はもう何年も意地を張ってません。ようし、先生も久しぶりに意地を張ってみるか。
と思いましたが、どうやったらいいか分かりません。そうだ、昔、先生が駆け出しの頃、上司の先生によく、麻酔器の流量計の玉の真ん中にメモリを合わせろ!って、よく怒られたなあ。よーし、先生は流量計で意地を張ってみるか、と思って麻酔器を見たら、今の麻酔器はデジタル表記でした。
「なんだ、2.1リットルってぇのは。お前は2.0リットルにしたいんだろぉ?」
あ、だめです。誰も聞いてません。なんせ、今日は重要で特殊な大臨時移植手術です。それどころではなかったようです。あ、ますます具合が悪くなってきました。先生は意地なんか張りたくありません。だからもう帰って寝たいです。でも、よく考えたら、先生は今日の手術室責任者で、しかも当直兼務じゃあありませんか。意地を張ってないのに帰れません。
アイデンティティー
「『先生、私のことを怒っていいですから』って言ってくる人が続出です!」
って、ウェブ管理者が言ってます。勘違いしてはいけませんよ。先生とこのウェブの管理人は別人です。
もっと本当のことを言いましょう。先生はマスキュラックスなんて隠してませんよ。本当の犯人は、おっちょこちょいでいいかげんな、そのウェブ管理人君です。
ってことは、やっぱり、その管理人に向かって、怒っていいですからって言うのは正解!ってことになっちまうな。ああ、何だか先生は自分は誰だか混乱してます。ユリカモメも自分が誰だか分からなくなってますよ。
そういう皆さんは、自分が誰だが分かってますか?
麻酔科医ですって?うそおっしゃい。じゃあ、麻酔科医をやめたらあなたはあなたでなくなるのですか?
先生は教授です。教授はめちゃくちゃ偉いから、先生は○周年ごとに教授就任記念パーティを開いたり、大きな全国学会を誘致して会長として切り盛りしたりして、その度に先生に見合ったゴージャスなゲストを呼びたいと思います。例えば五木寛之とか。
でも、五木寛之は死ぬまで、っていうか、死んでも五木寛之だけど、先生は教授を辞めたらただの人です。どれだけただの人かっていうと、親父に50年前のクラシックカメラをもらって嬉しくなり、まだ写るのかなぁと思って5万円もかけてメンテナンスをして、ためしにカミさんを撮ってみたら、それはもう予想以上に綺麗なカミさんが撮れちまって、うん、なるほど、これは親父の目を通したカミさんが写ってるんだな、なんてロマンチックなことを考えて悦に入る、本当にささやかなひとりの老人です。
でもきっと、五木寛之から見れば教授っていったって、全国ごまんといる大学教官のひとりに過ぎないわけで、むしろそれよりもクラカメ好きの愛妻家老人ってことの方を評価してくれるような気がしてならないのです。ああ、このオチなら赤瀬川原平の方がよかったね。
マスキュラックス
皆さん、ごめんなさい。マスキュラックスの空バイアルを箱に戻したのは、たしかに先生だったかもしれません。もうしません。許してください。今度から、きちんと空バイアル入れに入れますから。ところで、フェンタネストの空アンプルは箱に戻すんですね。ああ、難しい。先生も年ですから、物覚えが悪くて。いや、先生も経験が長くて、いろいろな病院を渡り歩いてきましたから、マスキュラックスの空バイアルは箱に戻すっていう決まりの病院もあったんですよ。そう、だから確かに犯人は先生かもしれません。
おい、だけどなぁ。気づけや、誰か。赤キャップもはずれてるし、粉も入ってないんだぜ。見りゃあ分かるだろ。それを1V余ったって箱ごと看護師に渡す研修医もだが、それを元の金庫に返す看護師もだが、それを箱から出してその箱は捨てて他の4Vしか入ってなかった箱に入れてきちんと整理する看護師もだが。その他、俺のいないところで、あーでもないこーでもないと一日中騒いでた貴様ら全員だ!
おうりゃあっ!てめえぇらっ!っと、さっきパソコンに向かって怒ってたら、そんなに怒るな、こっちまで腹立ってくる、と奥さんに怒られました。先生は、奥さんが腹立てたら大変なので、すぐに黙りました。奥さんは先生に向かって怒ればいいけど、じゃあ先生は、怒りたいときに誰に怒ればいいのでしょう。やっぱりここでひっそりと怒るしかないのでしょうかっ!!
おうりゃあっ!!
講義と授業
先生は、大学生の時に憧れた先生がいました。皮膚科の講師でした。当時、皮膚科といったら、なじみの薄い難解な病名を覚えるだけで大変、というイメージがあったのですが、その先生の講義にはほとんど病名が出てきません。発疹の写真や病理のスライドも登場しません。なんだか分からないけど、次々と生体内の化学物質の名前とその構造式が出てきて、ひたすらそれらが黒板に埋め尽くされていきます。当時、先生は全くその内容が理解できませんでしたが、なんかすごい先生なんだということは感じました。案の定、すぐに助教授を飛び越して、若くして教授になりました。
今考えると、おそらく皮膚を舞台にした様々な化学反応や免疫反応の最先端の話をしていたんだと思います。つまり、皮膚という「臓器」を、その機能面から生理学的に捉えていたわけで、この考え方は今でこそ当たり前かもしれませんが、当時としては時代を先取りしていたことになります。
しかし結果として、学生には全くちんぷんかんぷんだったし、医師国家試験にはひとつも役立たない知識です。なぜこんな講義をしたのか。
あとから伝え聞くところによると、この先生の信条として、「大学」というところは学問における「最高学府」である。最高のレベルの学問をしようと大学にやってきた学生に対して、自分の最先端の、最高の知識を伝授しなければ、それは失礼なことにあたる。先生は感銘を受けました。
ところが悲しいかな、医学部というところは、最高の学問を学ぶというよりは、技術を学ぶ専門学校、そして国家試験に受かるための予備校、という側面も宿命として持ち合わせています。学生たちは、自分のことを「生徒」と呼び、講義のことを「授業」と呼びます。ちょっと難しい話をすると、そんなこと「習ってない」といいます。先生はちょっと寂しいです。
そんなことを思っている折、大学からきた書類にふと目をやった先生は愕然としました。「授業計画について」と書いてあるではありませんか。大学もここまできたか。
ま、いっか。もし先生があなたに恋愛を指南するとしたら、「恋の授業」と「愛の講義」、どっちがいいですか?
道の道と可きは常の道に非ず
千歳空港から札幌に向かう車中、連れの関西人が言う。
「どの家にもエントツがあるんですねー」
え?そんなこと考えたこともなかった。先生が未だにカワラの屋根を奇異に感じるように、この御仁にはエントツが奇異に見えたのであろう。
先生は見知らぬ病院で得意の硬膜外麻酔を華麗に施した。さて、チューブを固定するぞぉ。えーっと、あれ?なにこれ?
トレイにはステリテープが・・。こんなの初めてだぞ。どうするの?まずこれを貼るのかい?おいおい、「そんな当たり前のことも知らんのか、この先生は」ってな顔でクスクス笑うなっ!ステリは無いだろー。お前らのほうが変だろー。
長引いた整形外科手術の帰り、ふと隣の部屋を見るとまだ手術やってるじゃないの。え?膵頭十二指腸切除?そんな大変なのやってるの?外科医が自前で?ここに日本を代表する麻酔科医が簡単な手術の麻酔を終えて帰ろうとしてるのに、となりでは自前でPDやってるわけ?
皆さん、今自分のいる環境で何気なく過ぎていく日常は当たり前だと思ってませんか。実は世の中、当たり前の事なんてひとつもありません。よかったら、あなたも先生といっしょに流浪の旅に出かけませんか。毎日が新鮮ですよ。
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