2013/03/25

チューブ誤挿入

最近チューブ誤挿入に関する共同通信の記事をよく見かけた。

A市の病院で、入院していた男性が胃に栄養剤を入れるチューブを気管に誤って挿入された後に肺炎で死亡し、A県警捜査1課が業務上過失致死容疑で捜査していることが、捜査関係者らへの取材で分かった。

私としては、この文章の、"胃チューブが気管に誤って挿入されること"それ自体がとても危険だという印象を与える点がやや気にくわない。胃チューブの気管への誤挿入が生命を脅かすのは、そこから何かが投与された場合だけであり、胃チューブの誤挿入だけではほとんど危険は発生しない。しかし、肝心の、実際に栄養剤を入れてしまったのかどうか、については記事の最後まではっきりとした記述がないのである。

チューブは自力で食事ができない人に、鼻からのどを通して胃に挿入する。県警はチューブの誤挿入が死亡につながった疑いがあるとみて、担当だった看護師らから事情を聴いている。

しかし県警は"チューブの誤挿入が死亡につながった"と疑っている。すなわち、間接的ではあるが(県警が常識的な医学知識を持ち合わせているとすれば)誤挿入のまま栄養を入れてしまったことを疑っている、というふうに置き換えることができる。

捜査関係者らによると、男性は手術を受けて集中治療室に入っていたが、肺炎で亡くなった。病院側は同日、異状死として県警に届けた。病院側は取材に「警察が捜査中でコメントできない」としている。

このあたりもやや不可解である。手術直後であれば経管栄養を投与するとは考えにくく、したがって事故は手術後かなり経ってから起きたのではないか、あるいは男性はもともと経管栄養をうけていた人だったのではないか、などと想像する。それとも栄養剤は投与されておらず、胃チューブが気管に誤挿入されただけで肺炎を起こして死亡したという稀なケースなのだろうか。いや、病院側が異状死として届けていることから、病院としては重大な医療過誤だという認識があったはずであり、やはり誤挿入された胃チューブを通して栄養剤が投与された可能性が高いと考えられる。

2005年にB県、06年にはC市の病院で、いずれも栄養剤のチューブを、誤って気管支や肺に挿入された患者が死亡しているほか、

気管に誤挿入された胃チューブから栄養剤が投与されるという事故はたしかに散発しているし、いったん起きれば致命的となりうる非常に危険な事故である。くどいようだが、あくまでも栄養剤が投与されるから危ないのであり、胃チューブの誤挿入自体はそれほど危険ではない。

06年にはD市の病院で、逆に気管に入れるべきチューブを食道に誤って挿入し、患者が死亡するなど、各地で同様の事故が起きている。

気管チューブの食道誤挿入は、胃チューブの気管誤挿入とは全く別問題であり、唐突にここで並列して論じることには強い違和感を感じる。ちなみにこっちのミスの方があっという間に命とりとなる。呼吸不全患者、自発呼吸が停止している患者では、気管チューブが食道に誤挿入されれば、その時点から生命の危険性が発生し、刻一刻と増大する。逆にいえば、バイタルサインをモニターしている限り、こっちのミスの方がすぐに気づきやすい傾向にはある。

医療関係者によると、チューブがきちんと挿入されているかどうかは、胃液の吸引や気泡の音を確認するなど複数の方法があり、使用するチューブの種類などに合わせてマニュアルを作成している病院もあるという。

私が問題にしたいのはこの最後のパラグラフである。なぜ問題かというと、この稚拙な文章を最後に付け加えてしまったことで、今回の医療事故の問題点がひどく薄っぺらなものへと卑小化されてしまっているからである。

たぶん記者は、この記事を書くにあたって、知り合いの医療関係者に、ねえ、これってどおなの?と訊ねたのであろう。医療関係者であればまずこう答えるであろう。おかしいなあ、普通は胃管を入れたら胃液を吸引したり、空気を入れて音を確かめたりして確認するはずなんだけどなあ、と。まるでそれをそのまま受け売りで書いてしまったような、とってつけたような文章である。

この最後のパラグラフをお読みになって、みなさんはどのような感想をいだくだろう。

ひでぇ、この病院って、胃管を入れたあとに、胃液を吸引したり、空気を入れて気泡の音を確認したり、そんな基本的な確認さえ怠って、平気で栄養入れちゃうんだ、恐ろしい、マニュアルも無いらしいぜ! 聡明なあなたならそこまでは思わないかもしれないけれど、これを書いた記者はそう思っていたか、少なくともそう思わせようとして書いたのではないかと推測する。

だがマニュアルにしたがって複数の方法で確認したのに結果として誤挿入だった、という可能性も否定できないのである。むしろそっちの方が重大な問題だ。贔屓目に過ぎるかもしれないが、私は胃管を入れたあとに気泡音を確認しない医療従事者が存在するとは思えないのである。実際のデータは知らないが、少なくとも、これまでの気管への栄養剤誤注入事故のすべてが、胃管挿入後の聴診を怠ったことに起因するとは思えない。そうではなく、この事故から学ぶべき最も重要な教訓は、気管への誤挿入は聴診だけでは見逃される可能性がある、ということである。

それではどうすればいいのかという話になる。たとえばX線撮影すれば誤挿入はほぼ確実にディテクトできるのではないか(他にもっと簡便な方法、もっと確実な方法があればご教示願いたい)。その場合、全例に施行するのが無理であればルール作りが必要になるが、聴診で確認できても胃液が引けない場合にはX線撮影するとか、あるいは栄養剤の誤投与こそが問題なのであるから、栄養剤投与が目的の胃管は全例X線撮影するとか、そういったルールになっていくであろうし、すでにそうしている病院も少なくないだろう。

胃管はナースが挿入するケースも多いようだが、すべて個人の責任に帰着することなく、誤挿入がすぐに発見できるシステムを構築し、安心して挿入できる環境を整えるのが病院責任者の責務であろう。

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2018/07/17

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