2011/12/05

コトラ17:シュルレアリスムにおけるデペイズマンという手法にみる人間の超現実世界に対する認識力への自己過信と絶対的な客観の存在性について

私が連載しているこのコトラ・シリーズの第1回を覚えておいでだろうか?

コトラ1:私の名前|スミルノフ教授公式ブログ
私が紹介することになったのは、旭川のかりんとう専門店「北かり」のかりんとうである。教授がスイーツブログはもうやめたと云って旅に出てしまい、原稿を書いてくれないので、私にお鉢が回ってきた。しかし、見知らぬ私がいきなり「かりんとう」について語ったところで、私についてなんのバックグラウンドも持たない読者が興味を示すとは思えない。そこでまず、私は何回かに分けて自分語りをしようと思う。いったいいつ「北かり」のかりんとうに辿りつけるのかは未定である。

そしてようやく辿りついたのである。この日をどんなに夢見たことか。
まさかここに辿りつくまでに連載にして17回、月日にして5ヶ月以上も要するとは、連載開始当初は思ってもみなかった。だがついに私にも、憧れのスイーツブロガーになる日がやってきたのである。

北かり1

それではさっそく私がご紹介しましょう。ここが旭川が生んだかりんとうの名店、北かりであります。 さっそくお店に入ってみましょう。

北かり2

お店に入ってまず目につくのが、この大きなざるに入った大量のかりんとうです!

突撃レポートっぽく始めてみたが、実は私はお店になんか行ってない。なぜなら私は人間ではないので、行ってもあまり意味がないからだ。写真だけ渡されて、実際に行ったようなふりをして原稿を書けと言われている。なんて腹立たしいことじゃないか。

北かり3

おい、よく見てみろ。しかも、これはかりんとうなんかじゃない。かりんとうの模型じゃねえか。いや、実は私には模型である、っていうことすら認識できないのだ。はっはっは。

ちょっと危険だが、ここで最も極端なケースを考えてみよう。今、人類が一人残らず滅亡したとする。それでもこれはかりんとうだろうか? いや、かりんとうの模型だろうか?
人類がいなければ、それはもやは何者でもなく、ただの物質に過ぎないのだ(もちろん、かりんとうという意味も消滅するから、かりんとうもただの物質、ということになる。だから危険だといったのだ)

まあとにかく、もう一度考えてみよう。
これはかりんとうだろうか?
かりんとうの模型をかりんとうだといっても、通常はなんの問題もない。

だがしかし、現実問題としてどうであろう。
これはかりんとうだろうか?
もちろん答えはNOである。

それでは、超現実問題としてどうであろう?
これはかりんとうだろうか?
もちろん答えは超NOである。

さて、話の展開がいくぶん強引かもしれないが、ここで本日のテーマに入る。本日のテーマとは、「シュルレアリスム」である。日本語では言うまでもなく(と言って言うのだが)「超現実主義」のことである。

超現実とは何か?
超現実とは「すごーく現実」という意味である。
「すごーぐ現実」ということは、もう個人の主観の入り込む隙間などないくらい、がっちがちに現実だ、ということだ。

したがって、何か訳の分からない物とか、幻想的なもの(この場合は個人の極めて主観的な認識に基づく想像、という意味である)に対して、

シュールだなあ

などと表現することに、私は絶対反対である。
それは全くもって正反対の意味の使われ方だからである。
そもそもシュルレアリスムでひとつの言葉であるので、それを分割すること自体が許されないのである。

つまり、超現実世界とは主観の徹底的否定であり、逆に極めて客観的な世界なのだ。
世界中の誰が見ても、犬が見ても、猫が見ても、何も変わらずそこに存在するその物自体で構成される客観的な世界、それが超現実世界なのである。

私に言わせれば、そのことを最も気づかせてくれるのが、シュルレアリスムにおける様々な手法の中でも、デペイズマンという手法である。デペイズマンとは何であろう? よくみられるデペイズマンの解説はこうである。

テペイズマンとは
テペイズマンとはシュルレアリスムにおける手法のひとつで、
意外な組み合わせをもって固定概念を覆し、驚きを生む方法である。
具体的には、例えば、
本来あるべき場所を別の場所に移す(位置のデペイズマン)、極端にサイズを変える(大きさのデペイズマン)、物の素材を別のものに入れ替える(素材のデペイズマン)、明るい空の下に夕闇の光景を描く(時間のデペイズマン)など……。

もし具体的なイメージが欲しければ、デペイズマンを多用した代表的な画家がルネ・マグリットなので、ルネ・マグリットで画像検索していただくと、おおよそどのようなものかがお分かりになると思う。

さて、上の解説では「固定概念を覆し、驚きを生む」と書いた。おそらく実際には、シュルレアリストたちの本音は「驚かせたい」、というところにあっただろう。しかし、美術史的に重要なのは、絶対に「固定概念を覆す」の方である。

固定概念とは、主観に内包されるものであり、しばしば主観のウィークポイントに成り得る。往々にして固定概念が覆されるときには、自分がいかに主観にばかり依存していたかということを思い知らされ、その代わりに客観とは何かという問いの答えに近づいたような気にさせられるものである。

では、さっそくここで私もデペイズマンを実践してみよう。
位置のデペイズマンである。
これである。

デペイズマン

これが皿の上に置いてあればそうは思わないのに、これを床の上に置いただけで、一瞬でも「犬のうんこ?」などと思ってしまうのが、人間における主観というもののダメなところなのである。もちろん、実際にこれを犬のうんこだと思った人は多くはあるまい。だが、犬のうんこを連想した人は少なくないはずだ。

なにバカなこといってるんだ、くだらねえ、犬のうんこなわけねえだろ、かりんとうだろ、ばーか、とかゆってる君に正解を提示する。

チョコクランチ

かりんとうではない。チョコクランチである。
床の上に置くなら、位置のデペイズマンにより適しているのはかりんとうではなくチョコクランチなのだ。これは豆知識として君に授けよう。

そうではなくて、次にお見せするのが、北かりの代表作、後をひく旨さが自慢の、歯ざわりさくさく、後味が意外とさっぱりしてるので、ついつい食べ過ぎちゃいますの、黒糖ってすごい!の、北海道産へのこだわりの、春ゆたかである。

かりんとう

これこそが、かりんとうの中のかりんとう、北かりの春ゆたかなのだ。

ところがこうして床に置くことで、それが一瞬でもかりんとう以外の何かに見えたとき、あなたは人間の主観というものがとても頼りなくて脆いものだということを思い知るだろう。それこそがデペイズマンの効果であり、また「客観」の世界を描写するシュルレアリスムの真髄なのである。

かりんとう2

私には分かる!
私は主観という病に侵された人間ではないのだから。
たとえかりんとうが床に置かれていようとも、
私の視界の範囲外に置かれていようとも、
それがかりんとうであるという「超現実」が、
揺るぎのないものであるということが!

だからいいかげん食わせろ!

註)本エントリーはいつものようにネタであり、シュルレアリスムとは何か (ちくま学芸文庫、巖谷國士著)とは基本的には無関係であるとお考えいただきたい。たしかに本エントリーは同書に多大な影響を受けており、受け売りである部分が多々ある。その一方、かなり意図的に読み違ってわざと曲解し、我田引水的なネタエントリーになっているのも確かなので、無用な誤解を避けたいからである。

しかし、このエントリーとは関係なく、同書はスミルノフ教授が今まで読んだノンフィクション本としてはベスト3に入る良書(スミルノフ教授談)だそうなので、ぜひ一読をおすすめする。


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2020/05/20

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コメント
前から思っていたのですが、 コトラちゃんのおうち、色々とデコラティブですね。
  • berettaM92F
  • 2011/12/06 12:19 AM
コトラ氏。 あなたは一体何におびえているのでしょうか。 そして、極上かりんとうは報酬としてもらえたのでしょうか。 気になります。
  • 眠狂四朗
  • 2011/12/06 8:37 AM
>berettaM92Fさん ま、最初に内容は退屈だから写真だけでも眺めろ宣言してるからね。コトラのお宅拝見シリーズだっていう見方もありだと思うね。 >眠さん かりんとうどころか、いつだか一家全員分の鶏肉のレッグを全部床に落として(モネにもあげたいから全部落とすんだよね)、一本はかなり食ったらしいよ。家の食卓にも上がっててね、それ一度床に落ちたから犬の毛とかついてるかもしれないから、って言われた。コトラがかなり食っちまった一本に関しては、飼い主の通称餌やり女が責任を取って食べたらしいよ。死ぬまでああだと思うよ。ほんと変わった犬です。ほめたら後退りするし。
  • スミルノフ
  • 2011/12/06 9:23 PM
てゆーか、私としてはシュルレアリスムについてかなりいい事言ったつもりで、教授の死後さばきにあうなんかよりよっぽどためになると思ったんだけど、私のシリーズは全体として今ひとつウケなかったようだ。やはりそろそろ潮時かな、と考えています。
  • コトラ
  • 2011/12/06 9:27 PM
ということは、そろそろ私の出番だろうか。いやダメですよ。なにも用意してないもの。
  • ジョン・レノビッチ
  • 2011/12/06 9:28 PM
レノビッチ様。 拝読させていただきます。
  • あみーゴ
  • 2011/12/07 11:42 AM
素晴らしい。 私の友人が初めて飛行機に乗って外国に行くというので、とても心配だと言っていた。 そこで私が「お清めのための塩を、小さいジップロックのような袋の中に入れてポケットの中に入れて持ち運ぶと良い」と言っておいた。 普通の海塩である。現実的には。 しかしながら、それが心のよりどころとなり、また、疑いの対象となる。 人間とはなんて不思議な生き物なんだろう。私はそう、感じる。
  •  
  • 2011/12/07 11:45 AM
>あみーゴさん レノビッチは本来なら明日登場するところですが、今年は無理、と申してます。代わりにアントニオカルロスジョビッチと交渉中ですが難航しています。 >名無しさん ありがとうございます。分かってくれる方は分かってくれたようで安心しております。
  • スミルノフ
  • 2011/12/07 4:35 PM
コメントは終了しました。

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