2017/03/14

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2011/02/16

しろくまタイムズスクエア 雪の練習生

しろくまタイムズスクエア

皆さんこんにちは。スイーツブログとは何かを真面目に考えているスミルノフ教授です。前回はスイーツブログの名にふさわしいエントリーだったと先生は自負しています。皆さんも太るだのダイエットしたいだの概ねスイーツブログらしいコメントをしてくれました。それでよろしい。しかし、柳月のどらやきの下には、「喜嶋先生の静かな世界」の他にもう一冊、「雪の練習生」が隠れていたことについて、誰も反応してくれなかったのは、先生としてはちょっと寂しい。そこで今日は、もしも「札幌タイムズスクエア」に例えるとしたならば、それは間違いなく「しろくまタイムズスクエア」であろう「雪の練習生」について論じておこうと思います。

だがしかし、先生は書評がすこぶる苦手です。だいいち小学生の頃から読書感想文が大嫌いでした。先生はその本を読んじゃうと、なぜだかその本のことはもう書けなくなってしまうのです。だから宿題とかでどうしても読書感想文を書かなきゃならないときは、その本を読まずに、題名と帯書だけを頼りにもっともらしいことを書きました。たとえば、高木彬光の「邪馬台国の秘密 (1973年)」は歴史書だと思って、「著者は主流である畿内説に異を唱え、推理作家らしいその洞察力で次々と証拠をあげながら九州説へと導いていく様は圧巻であった」などと、さも読んだかのように書いたところ、満点をもらいました。「邪馬台国の秘密」が実は推理小説であり、その後盗作騒ぎになったことを先生が知ったのはずっと後年のことでした。

しかも先生は「雪の練習生」を読んだあと、バカミスを3冊ほど読んでしまっているので、自分がホッキョクグマであった頃の記憶や感覚がすでに消えかかっています。でも、なんとかして今のうちに書き留めておくわ。今書き留めておかないと、もう一生書くチャンスなんてないかもしれないもの。

第一部、祖母の退化論。自伝を書き始めるのはトスカの母だ。だいたいホッキョクグマが自伝を書くという状況をここで受け入れることができなければこの小説はそこで終わりである。そこで終わりにしてもいいのに。もうわかんない奴はみんな置いてけぼりにしちゃえばいいのに。だけど多和田さんにそんな意地悪はできないのである。多和田さんは親切だ。多和田さんの親切に我々は報いなければならない。なぜホッキョクグマが自伝を書くのか? 書くとしたら何語で書くのか? ホッキョクグマ語? だがみんなはトスカの母の母国語はロシア語だという。だけど彼女はドイツ語で書く。母国語ってなに? 母国語じゃないドイツ語で書くとどうなるの? それは多和田さんの永遠のテーマである。

第二部、死の接吻。せっかくホッキョクグマが自伝を書くことを受け入れ、ここまでついてきた読者を多和田さんはいったん突き放す。語り部はホッキョクグマ使いの人間、ウルズラに交代する。どうして人間が伝記を書くのだ、伝記を書くのはホッキョクグマに決まってるだろ、と腹をたてることができれば、あなたがすでにこの小説のとりこになっている証拠である。でもそんな怒りはもちろん無用である。ウルズラはやがてトスカに飲み込まれていく。ウルズラの書くホッキョクグマのトスカの伝記は、ホッキョクグマのトスカが書くウルズラの自伝に昇華していく。見事だ。第二部が、本作最大の見せ場だと思う。

YouTube - Ursela Bottcher opname 1973 Circus Paul Richard
ウルズラ

第三部、北極を想う日。読者の多くはトスカの子クヌートが主人公の第三部がお目当てだろう。だが、クヌートと髭の飼育員の愛情物語を期待していたクヌート・ファンはたぶん裏切られる。少なくともクヌート・ファンのひとりであった私は――そしてピース・ファンでもあった私は(参照)、完全に突き放された。クヌート・ファンであること自体が罪深きことではないかと苛まれる。クヌートに苦悩がなければないほど私たちは罪深い。地球温暖化防止のシンボルとなったクヌートの姿は、様々な思惑に政治利用される世界中の少数民族にも重なっていく(例えばシドニー五輪の先住民族とか)。クヌートは安楽死させられるべきだったろうか(参照)。ホッキョクグマは南下し、ヒグマとの交雑が進んでいる。これは私たちが是が非でも阻止すべき現象なのだろうか。

ホッキョクグマ「クヌート」の飼育員、遺体で発見
クヌート

雪に想いを寄せるクヌートの姿で物語は終わる。祖国とはなんだろう。ソ連、西ドイツ、カナダ、東ドイツと渡り歩いた祖母、東ドイツで活躍した母、そしてベルリンで生まれ育ったクヌート、ホッキョクを知らないホッキョクグマたちにとってホッキョクとはなにか。第一部でおせっかいなほど親切だと思った多和田さんは、第三部ではすごく意地悪になって、大きな問を私たちに投げかけて書き終える。

日本語、ドイツ語、ホッキョクグマ語で考える多和田さん、最初から翻訳を意識した日本語でノーベル賞を狙う作家よりも先にノーベル賞をもらえたらいいですね。

雪の練習生
雪の練習生 新潮社

次回のスイーツもお楽しみね!

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コメント
加藤秀一のパスティーシュでしょうか?
  • 仮性体臭
  • 2011/02/21 7:54 AM
はじめまして。いつもこのレビューが参考になります。
  • はるまき
  • 2011/02/21 11:53 AM
加藤周一でしたね。すみません。
  • 仮性体臭
  • 2011/02/21 3:00 PM
教授御尊顔の下に書いてある あんましはっちゃきこくんでねえ というお言葉を見てじーんときました…。
  • Yam
  • 2011/02/21 6:32 PM
>仮性体臭さん 突っ込む前に訂正されましたね。加藤周一は学生時代に頑張って読もうと努力しましたが、よく分からなかったです。 >はるまきさん 本のレビューはあまりしたことないんですが。 >Yamさん 北海道限定ですね。個人のちっぽけな正義感の基にはっちゃきこいても、あんましいいことないです。
  • スミルノフ
  • 2011/02/21 9:31 PM
はじめましてです。 いつも読ませてもらってます。 ”最初から翻訳を意識した日本語でノーベル賞を狙う作家”!おもわず、コメントしました。今日一番すかっとした、ことばです。 そちらのれびゅーもおねがいします。
  • mentalbeach
  • 2011/02/27 4:30 PM
追伸。 いまそっちのほうの教授のレビューも見つけちゃいました。
  • mentalbeach
  • 2011/02/27 4:39 PM
>mentalbeachさん 文中にあるように、先生は書評がすこぶる苦手です。たぶん人違いです。内緒にしといてください。
  • スミルノフ
  • 2011/03/01 10:23 PM
ハイハイ内緒 (ひそひそ)すみません。
  • mentalbeach
  • 2011/03/13 1:57 AM
コメントは終了しました。

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