2008/05/31

自己犠牲

亀山郁夫先生がロシアの芸術を語るときによく「二枚舌」という言葉を使う。権力に媚びているように見せかけながら、けっして権力には屈服しない芸術をいう。

ここ何年か宮沢賢治の「自己犠牲」について考えてきた。自分の命を捨てることで妹が幸せになるのなら、賢治は惜しまず命を捨てたことだろう。誰しも個々の心中には自己犠牲の精神というものが内在するであろうし、私にはそれを惜しみなく実践できる自分でありたいという願望が確かにある。だが、迫りくる軍国主義の到来を前に、賢治は「より大きなもののために惜しみなく自分を犠牲にすることの恐ろしさ」も同時に予感していたのではないか、というのは考え過ぎだろうか。

カムパネルラはザネリのために惜しみなく命を捨てたのだろうか。ならば汽車の中でのカムパネルラはもっと幸せそうでもいいのにと思う。「みんなの幸いのためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない」というジョバンニのセリフは、子どものころから頭に焼きついて離れない言葉だ。だが今冷静に考えてみると、カムパネルラの死よりも、早く母親の元に牛乳を届け父の帰りが近いことを知らせたいジョバンニで物語は終わるのだ。単に自己犠牲が賛美されているとは到底思えず、最近の私はこれも「二枚舌」なのではなかろうかと勘繰ってしまうようになった。

自己犠牲を超えた本当の幸いがある。その本当の幸いとは何か。結局賢治は自らの永遠のテーマに答えを見つけることができず、あるいは答えなどないことを悟ってこの世を去ったのではないだろうか。


関連記事

2020/07/26

スポンサーサイト

|-|by スポンサードリンク


教授御尊顔
教授御尊顔
だまれ!
follow us in feedly
Links
サイト内検索
Googleサイト内検索
懐コンテンツ
喉頭鏡素振りのススメ
スミルノフスイッチ
カテゴリ一覧
過去ログ
Recommend
史上最強カラー図解 はじめての生理学
史上最強カラー図解 はじめての生理学 (JUGEMレビュー »)

ダルビッシュも読んでいる、先生の恩師の著書です。買ってやってくれや。
いちばんやさしい生理学の本
いちばんやさしい生理学の本 (JUGEMレビュー »)
當瀬 規嗣
先生の恩師です。買ってやってくれや。
Others
mobile
  • qrcode
powered
  • 無料ブログ作成サービス JUGEM
PR