2008/04/07

年をとったら分かること

詩人の松本圭二さんが、本人曰く「やけっぱちの」青春小説を書いた。

「すばる」4月号

ご自身の若い頃は、ただ時間をだらだらと無駄に潰すだけのとても青春とは呼べない代物だったので、だからこの青春小説は嘘っぱちなんだそうだ。公務員をやめて退路を断ち、小説家として食ってくことをやけっぱちで決断されたようだ。詩を読んでる限りは、こんなおもしろい方だったとは思ってなかったなあ。ご本人にしてみれば必死なのだろうから悪いけど。

今思えば、私も若い頃をずいぶん無駄に過ごしてきた。というか、大方の人の若い頃なんてそんなものだろう。社会人になってからは、劣等生だった分を挽回しようと、私にしてはこの分野でずいぶん頑張ってきたと思ってた。少しは名も売れたし、講演や著作の依頼も入るようになった。しかし最近、それは所詮狭い分野での話だということに気づくと、この分野で頑張ってきたことも、結局若い頃と同じで無駄であるような気がしてきた。だから試しに講演も原稿依頼もほとんど断りつづけてみた。すると、たった1年でそういう仕事は入らなくなった。所詮それだけの仕事だったということだ。

少し時間ができると、もっと人間としての、いや、人間としてのと言ってしまうと大げさに聞こえるが、言い換えればひとりの平凡なおじさんとして、息子として、夫として、もっと大事なことがあるような気がする。私はどうして私なのだろう、私はどうしてこの親たちから生まれてきたのだろう、私はどうしてこの人と出会って夫婦になったのだろう、そんな子どもみたいな疑問が今さらのようにつきまとうようになった。

偉大な詩人が、小説家が、哲学者、思想家、宗教家が、そして画家や音楽家たちが、時を超えて数え切れないほどの素晴らしい作品を私たちに残してくれている。そうして私がそれらを賞味できる時間は刻一刻と削られていく。所詮すべてを堪能することなど不可能なのだけれども、この1年、仕事よりもそういうことに重きをシフトしてみた。おじさんにとっての1年なんて若者のそれに比べれば微々たる時間なのだけれども、そんなわずかな1年だって私を明らかに変えつつあると思うよ。

こちらでは、今年のサクラはまだ満開ではないけれども、なかなか良さそうだね。カタクリも毎年見てきたけど、今年もとても良かったよ。サクラもカタクリも、私がいなくなったあとも悠久の時を超えて毎年春に咲くことを繰り返すだろう。花は毎年同じように咲くのに、私の花を見る目は年々変わってきている。私はあと何回この感動を味わえるだろうか。そう思うと、今年も美しい花を鑑賞できたことに涙が浮かんでくるほどなんだ。

私が「無駄」と言ったのは、けっして悪い意味じゃない。現に私は今、これまでの人生を後悔はしていない。もちろん、若い頃にもっとこうしていればと考えることもあるが、ただ年を重ねると、あの頃、がむしゃらだったり苦しかったりした自分も、それも間違いなく自分だったのだと思う自分がここにいる。若い頃に戻りたいとか、もっと若ければと思わないこともないが、そのようなかなわぬ願いは年々薄れ、こうして静かに年を重ねていくのも、まあ悪くはないなという心境になっている。

今でもつらいことはそりゃあるよ。でも所詮つらいということは、自分以外の何者かに振り回されているからに過ぎないんだ。そしてそれも、そんな自分だったのだなあと受容できる日が誰にでも来る。どんな人生を歩もうと、それでもまあ悪くない人生だったじゃんと最期に思えることが、しょせん人間のささやかで、それでいて最高の目標なんではないかな。

出だしと終りがちょっとずれてしまって、ほんとはもっと違うことを書きたかったんだけど、今日はこれまで。おやすみ。


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2020/07/26

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